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【壊憲・改憲ウォッチ(49)】「国会議員任期延長改憲論」に「国民固有の権利」(憲法15条1項)を奪う正当性があるか~2025年3月13日衆議院憲法審査会を傍聴して~

2025年3月17日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

2025年3月13日、衆議院憲法審査会を傍聴しました。

国会議員の任期延長改憲論をめぐり議論されましたが、議論の分析が以下になります。

① 改憲5会派(自民党・公明党・日本維新の会・国民民主党・有志の会)からは主権者の権利である「選挙権」を奪う正当な事由が示されなかった
② 改憲5会派は主権者の「国民固有の権利」である選挙権を軽視している
③ 議論が不十分
④ 改憲5会派が主張する「国会議員の任期延長改憲論」は「内閣と衆議院の居座りを許すゾンビ改憲草案」(れいわ新選組の大石あきこ議員発言)

【1】 「国民固有の権利」(憲法15条1項)を奪う正当性があるか

日本国憲法では「国民主権」が基本原理とされており(憲法前文、1条)、国民主権の具体化として憲法15条1項では「選挙権」が「国民固有の権利」とされています。

改憲5会派が主張する「国会議員の任期延長改憲論」は、「選挙困難事態」と認定された際、国会議員の選挙を延期するという改憲論です。

改憲5会派は主権者の権利である「選挙権」を奪う改憲を主張していますが、「選挙権」という「主権者の権利」を奪う正当性があるのでしょうか?

れいわ新選組の大石あきこ議員は「自民の船田幹事と維新の馬場幹事に聞きたいんですけれども、選挙の一体性、選挙という国民固有の権利を奪うほどの正当性があるというのは憲法の何条に支えられているのでしょうか」と質問しました。

大石議員は「根拠条文は何条ですか」と聞いています。

にもかかわらず、日本維新の会の馬場伸幸議員は関係ない答弁を長々と発言し、「何条」という根拠条文を答えませんでした。

当然ながら大石議員は「答えになっていませんでした」と発言しました。

船田元自民党議員は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」という憲法43条1項を挙げました。

43条1項を挙げたことに大石議員は「憲法15条、国民がまず選挙で選んで始まるんだというところに対して、それを上回るような理屈でなかった」と発言しています。

れいわ新選組の大石議員は「私たちの選定と罷免は国民固有の権利であると憲法15条は言っています。任期延長はこの国民の権利を奪うものですから、それに足りる理屈が必要ですけれども、それは存在しません」と主張しています。

東日本大震災で選挙ができない地域があったことを例に挙げ、全国民の選挙権の行使の制限を主張する改憲5会派に対し、立憲民主党の山花郁夫議員も以下の発言をしています。

「一部地域で選挙を行うことが困難であることをもってより多くの地域の選挙権を制限するというのは、比較考量、比例原則の観点からも明らかにバランスを失している」。

日本共産党の赤嶺政賢議員も以下の発言をしています。

「日本国憲法は、主権者が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動することとしています。その下で、衆議院の任期を4年、参議院を6年と定めて3年ごとの半数改選とすることで、定期的な民意の反映と権力の民主的統制を求めています。そのためにも、いかなる場合であっても選挙権は絶対に保障されなければなりません。
ましてや、国民の選挙権行使の機会を奪う場合をあらかじめ定めておくなどということが許されるはずがありません」。

2005年9月14日、最高裁判所は「在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」で以下の判示をしています。

「国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである」。

立憲民主党、れいわ新選組、日本共産党が主張するように、選挙権は「主権者」の権利として極めて重要な権利です。

最高裁判所も、正当な事由もないのに選挙権の行使を制限することは許されないと判示しています。

しかし改憲5会派の議論からは、主権者の権利として重要な「選挙権」を制限するのが必要との説得的な主張がされませんでした。

「平等」という主張がまったく理由がないとまでは言えませんが、山花議員が主張するように、「比例原則」等を根拠としても、全国民の選挙権を一斉に奪う改憲論は正当ではありません。

改憲5会派は主権者の権利である「選挙権」を軽く見ています。

【2】 議論が不十分

公明党ですが、衆議院の憲法審査会では議員任期延長改憲が必要と主張するのに対し、参議院では「衆議院の任期延長には民主的正統性の問題がある」旨(2023年6月7日参議院憲法審査会での公明党西田幹事)発言しています。

公明党が衆議院と参議院で異なる主張をしていることに対し、立憲民主党の柴田勝之議員は公明党にその整合性を質問しました。

この点に関しても公明党の回答は不十分でした。

『地平2024年12月号』73頁などで私は主張しましたが、2024年8月7日、自民党は国会議員の任期延長論議の前提となる「参議院の緊急集会」等について見解を変えました。

船田元氏は「選挙困難事態における選挙期日、議員任期延長の特例と前議員の職務権限行使については、自民、公明、維新、国民、有志の5会派において、ほぼ合意を得るに至っています」などと発言しました。

しかし議論は「不十分」「生煮え」であることが3月13日の審議でも明らかでした。

【3】ルールを守らない維新の問題点

2024年12月19日付の「壊憲・改憲ウオッチ(47)」で私は日本維新の会の「規範意識の欠如」も問題としました。

2025年3月13日の憲法審査会でも枝野幸男会長から「発言時間が終了しました。お約束はお守りください」と注意されても長々と発言を続けました。

馬場氏が発言を終えた後、枝野会長は再度、「お約束をお守りください」と馬場伸幸氏を注意しました。

当然の注意です。

最近でも2024年の兵庫県知事選挙に際し、非公開とされた百条委員会の音声を外部に提供するなど、日本維新の会の政治家には規範意識の欠如を感じることが多いですが、ルールを守らない馬場氏の対応にも「規範意識の欠如」を感じます。

内容的にも問題ですが、「規範意識の欠如」を感じる日本維新の会の政治家たちが憲法改正を主張するのを聞くと、彼ら・彼女たちが主張する改憲は危険との思いをますます強くします。

【4】「内閣と衆議院の居座りを許すゾンビ改憲草案」

上川陽子前外務大臣は「東日本大震災のような大規模災害が発生した場合、選挙運動ができると考えるのでしょうか。こうした場合、御自身が被災地でどのような選挙行動を行なうつもりなのか」などと立憲民主党に質問していました。

改憲が行われるのであれば、それはあくまで主権者である私たちのためであり、政治家のためであってはなりません。

選挙運動ができないことを改憲の理由に挙げた上川陽子発言を聞くと、自民党政治家は自分たちのために「議員任期延長改憲」を主張しているとの思いを強くします。

国会の機能維持のために国会議員の任期延長が必要だと改憲5会派は主張していますが、たとえば最近でも2024年11月の沖縄県北部豪雨災害、2025年2月の岩手県大船渡の山林火災に国会は本格的な対応をしてきたのでしょうか?

「緊急事態でも国会機能の維持が重要」などと発言していますが、改憲5会派は真剣に自然災害に対応しているのでしょうか?

法律で対応できないかどうかも十分に議論もしないのに憲法改正を主張するのでは、山花議員が主張したように、憲法改正の「立法事実」があると言えません。

2025年3月13日衆議院憲法審査会での改憲5会派の主張を前提としても、国会議員の任期延長改憲論は、選挙をしないで国会議員の地位に居座る改憲であり、「内閣と衆議院の居座りを許すゾンビ改憲草案」(2025年3月13日衆議院憲法審査会でのれいわ新選組大石あきこ議員の指摘)です。