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【壊憲・改憲ウォッチ(47)】2024年12月19日衆議院憲法審査会について

2025年1月4日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】はじめに

2024年12月19日、衆議院では憲法審査会が開催されました。

この原稿、2025年1月1日に書いています。

率直な感想として、この原稿を書いている最中に「ため息」が出ました。

改憲5会派の改憲論、あまりにも憲法の理解に欠け、支離滅裂だからです。

たとえば日本維新の会の馬場伸幸議員、「立憲主義、民主主義の根幹には国民主権があります」と発言しています。

「民主主義の根幹には国民主権がある」とはどういうことでしょうか?

自民党は、自党の過去の立場に矛盾する発言すら平然と行います。

船田元議員が「平成24年の自民党の憲法草案でございます。この扱いにつきましては、確かに自民党の中でのオーソライズはしたものでございますが、その後、様々な検討を行いましたところ、この24年の草案については、ある意味では歴史的文章として凍結をしている」と発言した時、他会派の議員たちは「失笑」していました。

一方、2024年10月の衆議院選挙後、憲法審査会の委員や構成が変わり、好ましい傾向も出ています。

ちょっと長くなりますが、ここでは憲法審査会の問題点と今後の指針に言及します。

【2】日本維新の会の問題点

(1)馬場伸幸前日本維新の会代表の支離滅裂な憲法理解

日本維新の会の馬場伸幸議員は、「立憲主義、民主主義の根幹には国民主権があります」と発言しています。

「民主主義の根幹には国民主権がある」とはどういうことしょうか? 馬場議員にはぜひ、「民主主義」と「国民主権」の関係について説明してほしいです。

樋口陽一東京大学名誉教授は、「国民主権」と「立憲主義」は緊張関係にある旨主張していますし、私もそう理解しています。

「国民主権」の実現で個人の権利・自由が全く侵害されないのであれば、国家権力を拘束する「立憲主義」は必要ないからです。

「立憲主義……の根幹には国民主権がある」と発言した馬場議員、「立憲主義」と「国民主権」の関係をどう捉えているのでしょうか?

馬場伸幸議員は「憲法を国民の手に取り戻すときです」とも発言していますが、国民全体が改憲を真剣に求めているわけではありません。

国民全体が求めてもいないのに政治家が自分たちの政治目的を達成する口実として「国民意志」を援用することこそ、「国民主権」濫用の危険性として憲法学界でも警戒されてきたことです。

(2)中山太郎氏の神髄とは

憲法審査会で議論をするのであれば、実際の憲法問題を真剣に議論すべきです。

ところがいつものように、馬場伸幸議員は今回も憲法審査会で執拗に自民党、立憲民主党、共産党批判をしていました。

「弟子だった私が中山方式の神髄をはっきり申し上げます」と馬場伸幸議員は発言していましたが、中山太郎議員は自分と異なる立場の人たちを執拗に批判してきたのでしょうか?

「静ひつな環境の下で大所高所からの議論を行なうべき」(12月19日の橘幸信衆議院法制局長の紹介)というのが「中山方式」の神髄であれば、憲法審査会で他党批判をしつこく繰り返す馬場氏の対応、「中山方式」と相容れるのでしょうか?

「年末年始の閉会中も審査会を適時開いて、議論を前に進めようではありませんか」と馬場氏は発言していますが、憲法審査会で執拗に他党批判を繰り返すのであれば、憲法審査会の開催は必要ありません。

(3)規範意識の欠如

1巡目の自由討議に関しては、幹事会の協議に基づいて発言は各会派一名ずつで7分以内、時間を経過したらブザーを鳴らすとしていました。

発言時に馬場伸幸議員はブザーを鳴らされましたが、急いで発言をまとめることなく、延々と発言を続けました。

幹事会の協議に基づき、2巡目は他党に対する質問とされていました。

ところが同じく日本維新の会の阿部圭史議員は他党への質問をしないで自己の主張を続けました。

ルールを守らない阿部圭史議員に枝野幸男会長は注意しました。

今回の憲法審査会でも馬場伸幸議員、阿部圭史議員の対応に規範意識の欠如を感じました。

【3】自民党の立場について

2024年12月に韓国で非常戒厳が発動され、その危険性が危惧されていることに関し、船田元議員は以下の発言をしています。

「韓国で発出されました戒厳令、非常戒厳、これを引き合いに、緊急事態条項には濫用のおそれがあり、憲法に緊急事態条項を設けるべきではないと言われることもしばしがばございますが、韓国の戒厳令と我々が行っている議論とは全く別物と考えています」。

具体的にどう違うのか。船田議員は以下の発言をしています。

「我々が議論している、いわゆる議員任期延長を中心とした緊急事態条項は、いかなる緊急時であっても国会機能を維持し、国民の生命、身体、財産を守るために法律の制定や予算の議決ができるようにするための仕組みをつくっていこうというものであります。韓国の戒厳令のように政治活動を禁止したり報道や集会を規制したりするといったものとは全く性質が異なります」。

上記の発言、今までの自民党の対応からすれば「虚偽」と言わざるを得ません。

2025年1月1日に自民党憲法改正実現本部のHPで確認しましたが、「憲法改正実現本部は〔2024年〕9月2日、選挙困難事態における国会議員の任期特例に加え、早急に取り組むべき憲法改正の重要なテーマとして確認した、自衛隊明記と緊急政令に関する論点整理を取りまとめました」とされています。

ここでいう自民党の「緊急政令」こそ、韓国の「非常戒厳」と同様の危険性をもたらす改憲論です。

【4】有志の会北神圭朗議員の発言について

北神議員は以下の発言をしています。

「韓国憲法第77条5項には、国会が在籍議員の過半数の賛成により戒厳の解除を要求したときは、大統領はこれを解除しなければならないと規定されています。大統領の非常戒厳に対する手続が明記されていたからこそ、国会はこれにのっとって非常戒厳の解除をすぐに行うことができたのです。このことを踏まえれば、緊急時に行政権の暴走を牽制する仕組みを憲法に明記することこそが、国会中心の民主主義を守ることにつながるのではないでしょうか」。

れいわ新選組の櫛淵万里議員は緊急事態条項創設の改憲論について、「事実と異なる国会答弁を118回も行った総理大臣さえいました。憲法を無視し、国会にうそをつく日本で緊急事態条項のルールが守られるなど、空絵事でしかありません」と批判しています。

櫛淵議員の発言に北神議員は説得力をもって反論できるのでしょうか?

国会の解除手続があったから濫用されなかったと北神議員は述べていますが、そもそも解除手続が明記されていたのは、非常戒厳の濫用を防止するためです。

時の政権による濫用の危険性を回避するためには、緊急事態条項自体を憲法に導入しない方が適切ではないでしょうか?

「緊急時に行政権の暴走を牽制する仕組みを憲法に明記することこそが、国会中心の民主主義を守ることにつながるのではないでしょうか」と北神議員は発言していますが、そのような目的から、憲法に緊急事態条項を設けず、「参議院の緊急集会」で対応すると帝国議会憲法改正委員会で金森徳次郎大臣が答弁していた意義を理解する必要があります。

【5】公明党の「環境権」の主張について

公明党の濱地雅一議員は「環境権」の議論もすべきと発言しました。

ただ、スペインで訴訟が乱発されたことを口実にして、「環境権等につきましては、国民の主観的権利ということではなく、「国は」で始まる、国に対する責務を課すような規定でなければならない」と発言しています。

公明党が主張する「環境権」に関する改憲論、市民に権利を保障することを目的にしていないことを念頭に置く必要があります。

【6】憲法審査会では何を議論すべきか

今まで紹介したように、改憲5会派の改憲論議は支離滅裂、自党の立場とすら異なる主張を公然と行うなど、大問題です。

一方、立憲民主党、れいわ新選組、共産党は国会法102条の6を根拠に「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制」の調査の必要性を主張しました。

立憲民主党の武正公一議員は「同性婚の法制化」等の議論の必要性を主張しました。

れいわ新選組の櫛渕万里議員は、「憲法25条1項に、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあります。しかし、それができていない。憲法審査会では、このように現行の憲法規定が遵守されていない問題を徹底的に議論すべきでしょう。現行憲法さえ守れない者たちに憲法改正を論じる資格は一切ありません」と主張しています。

「30年にわたる不況、コロナ、そして物価高の三重苦で国民が苦しむ中」、憲法25条が実現されていない現実こそ徹底的に議論すべきという櫛淵議員の発言、極めて大切です。

日本共産党の赤嶺政賢議員も沖縄の基地問題に加え、「同性婚や選択的夫婦別姓、学費や教育費の無償化、貧困と格差、えん罪と再審請求、外国人の人権など、全てが憲法問題です。憲法の原則に逆行し、踏みにじられている政治と社会の実態を放置することは許されません。私たちは、政治家は憲法を変える議論ではなく憲法に反した現実を変えるための議論をすべき」と主張をしています。

憲法審査会で議論すべきは、人々のいのちと暮らしを守ることを目的とする憲法の理念を活かす政治が行われているのか、そうした議論です。

憲法審査会を開催するのであれば、国会法102条の6に基づく政治の実態を議論すべきと私たち市民も強く主張することが重要です。

【7】選挙を視野に入れて

2024年の通常国会まで、議員数の圧倒的違いから、衆議院憲法審査会は改憲5会派による強行的な主張・対応がまかり通っていました。

しかし2024年12月19日の衆議院憲法審査会、議論の状況が変わっていました。

とりわけ立憲民主党、れいわ新選組、日本共産党の委員が国会法102条の6を根拠とする憲法実態の調査を力強く主張したこと、米山議員の発言のように、企業・団体献金と憲法の関係について憲法審査会で追及できる環境が生じたことは、私たちのいのちと暮らし、生活をよくするためには極めて有益な変化です。

衆議院憲法審査会がこうした状況になったのは、2024年10月の衆議院選挙で改憲会派が議席を減らす一方、立憲民主党が議席を増やし、共産党に加えてれいわ新選組も憲法審査会で発言できるようになったからです。

支離滅裂な改憲論議が「国権の最高機関」である国会で幅を利かせ、国民・市民の平和とくらしを脅かす改憲にむけた動きを阻止するためにも、2025年の参議院選挙、さらに次の衆議院選挙でも「ジゴクイコウ」(自民、国民、維新、公明)といわれる改憲会派の議席を増やさないとりくみが必須です。