【壊憲・改憲ウォッチ(43)】相次ぐアメリカ兵の「性犯罪」と岸田自公政権の「隠ぺい」
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
【1】 相次ぐアメリカ兵による性犯罪と岸田自公政権の「隠ぺい」
2024年6月25日夜。沖縄でアメリカ兵が16歳の女性を誘拐の上、性犯罪を起こした事件が報じられました。
「またか!」。 女性の尊厳と人権を踏みにじる、また繰り返されたアメリカ兵の性犯罪に対して怒りの世論が起こりました。
さらにこの卑劣な性犯罪が数か月も公表されなかったことも怒りの対象となりました。
琉球大学法科大学院の矢野恵美教授(ジェンダー法学)は、性犯罪事件で被害者保護が重要だと強調した上で、「面識がなく、被害者の名前を伏せれば個人が特定されないようなケースでも公表しないのは、政治的な配慮ではないかとの疑いが出る対応だ」と述べています(『琉球新報』2024年6月29日付)。
アメリカ兵による16歳女性誘拐・性犯罪が起こったのは2023年12月24日でした。
警察が被疑者を書類送検したのは2024年3月11日、アメリカ兵が起訴されたのは3月27日です。
すくなくともアメリカ兵が起訴された3月段階で、岸田自公政権は沖縄県に事実を伝えるべきでした。
アメリカ兵性犯罪の情報は再発防止、沖縄県民の安全確保につながります。
今まではそれなりにアメリカ兵の性犯罪事件は公表されてきました。
ところが玉城デニー知事が2023年12月のアメリカ兵性犯罪事件を知ったのは6月25日でした。
先の矢野恵美教授の指摘のように、アメリカ兵の性犯罪を政府がすぐに沖縄県に知らせなかったのは、自公政権が選挙や政治目的を考慮したとの批判にあふれています。
2016年5月、安倍首相とオバマ大統領は会談しましたが、4月に沖縄で女性がアメリカ兵に強姦の上、殺害された事件があり、会談成功の雰囲気を作り出せませんでした。
2024年4月に岸田首相とバイデン大統領は会談予定でしたが、ここでアメリカ兵による未成年女性誘拐・性犯罪の事実が明らかになれば、安倍・オバマ会談と同じ状況になる可能性がありました。
2024年6月の沖縄県議会選挙でも、アメリカ兵による性犯罪が連続して起きたことが明らかになれば、沖縄でさまざまな基地建設を進めてきた自民党や公明党の候補者が不利になる可能性がありました。
6月23日の慰霊の日に際しても、アメリカ兵性犯罪が繰り返されていた事実が明らかになれば、岸田首相や上川外務大臣は犯罪事実に触れざるを得ず、批判が強くなる可能性がありました。
こうした事情から、岸田自公政権は頻発したアメリカ兵性犯罪を隠したとの批判が多く寄せられています。
東京地検特捜部元検事の郷原信朗弁護士も、地検が沖縄県に重大事案を伝えていなかったことを「不可解だ」としています。そして「官邸サイドからの要請で法務省が現場に圧力をかけたのでは」と推定しています(『沖縄タイムス』2024年6月28日付)。
実際、長崎地検の次席検事時代に郷原氏が自民党長崎県連の違法献金事件を手掛けた際、法務省の意向を受けた最高検から「国会の関係で発表は控えてほしい」と強い圧力がったことから、今回のアメリカ兵による女性誘拐・性犯罪についても「官邸サイドからの要請で法務省が現場に圧力があったのでは」と推定しています。
【2】 「隠ぺい」の言い訳にならない「プライバシーのため」
沖縄県にアメリカ兵性犯罪について伝えない理由につき、政府は「プライバシー」を理由に挙げています(たとえば2024年6月27日記者会見での林芳正官房長官発言)。
被害を受けた女性のプライバシーを守ることが重要なのは当然です。
ただ、「プライバシー保護」も理由になっていません。
矢野恵美教授の指摘は先に紹介しましたが、郷原弁護士も、被害者のプライバシーを守るなら「情報の一部だけを伝えればいい」と批判しています(『沖縄タイムス』2024年6月28日付)。
【3】岸田自公政権によるアメリカ兵性犯罪「隠ぺい」の弊害
(1)被害者への補償と支援の遅れ
山本章子琉球大学准教授は「在日米軍の事件事故に関する賠償・補償は外務省ではなく、沖縄防衛局が担う業務であり、防衛局が知らなければ補償手続きは始まらない。被害者補償の観点からも、防衛局が知らなかったことは、県に連絡がなかったこと以上に問題だ」と批判します『沖縄タイムス』2024年6月28日付)。
(2)犯罪防止対策をとれなかったこと
つぎに、岸田自公政権が「隠ぺい」したことで、沖縄県や市民団体などが警戒・啓発活動を含めた犯罪防止対策をとる機会が失われました。
地域住民の安全のため、岸田自公政権はアメリカ兵による性犯罪が再び起こった事実をすぐに伝え、注意喚起を促すべきでした。
2023年12月の未成年女性誘拐・性犯罪がアメリカ兵起訴の3月末段階で明らかになれば、沖縄県としても注意・警戒喚起等の犯罪対策ができました。
ところが岸田自公政権はアメリカ兵性犯罪を今年6月25日まで沖縄県に伝えませんでした。
実際、2024年5月にも再びアメリカ兵による性犯罪事件が起こりました。
2024年7月1日、沖縄県女性団体連絡協議会副会長の久手堅幸子さんは「早く公表していれば、米軍が綱紀粛正して5月の事件は防げたかもしれない」と批判します(『琉球新報』2024年7月2日付)。
【4】どうすべきか
(1)実効性ある米兵犯罪撲滅のための対策
沖縄県警によれば、1972年の復帰後、アメリカ軍人の犯罪の検挙数は6163件、殺人、強盗、強制性交等罪といった凶悪犯罪の摘発は584件、「強制性交等罪」は134件となっています(RBC2024年6月26日放映)。
「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の宮城晴美さんによると、1945年以降のアメリカ兵の性犯罪は確認できるだけでも1000件を超えると言われます(『東京新聞』2024年6月27日付〔電子版〕)。
性犯罪の性格上、これらの数字は「氷山の一角」であり、この数字以上に多くの女性たちが被害を受けてきたと思われます。
最近、岸田首相は「先送りできない課題」という発言を頻繁に行います。
6月25日の自民党役員会でも「憲法〔改正〕は先送りできない課題の最たるもの」と発言しました。
「先送りできない課題の最たるもの」、日本政府に求められているのは極めて不公正な「日米地位協定改定」を含めた、米兵犯罪の抑止・撲滅のための実効性ある対策ではないでしょうか?
2023年12月の未成年女性誘拐・性犯罪事件に対しても、2024年3月27日に岡野正敬事務次官がエマニュエル駐日大使に綱紀粛正と再発防止の徹底を申し入れました。
にもかかわらず、5月に再びアメリカ兵の性犯罪が起きたということは、日本政府の抗議には効果がないことを示しています。
今までも卑劣な性犯罪が数多く繰り返されており、そのたびに日本政府は「再発防止」「綱紀粛正」をアメリカに要求してきましたが、また今回もアメリカ兵による性犯罪が繰り返されました。
7月3日、アメリカ兵による2023年12月と2024年5月の性犯罪事件に関して沖縄市議会は臨時会を開き、抗議決議と意見書を全会一致(欠席2)で可決しましたが、沖縄市議会は「米兵などに再発防止や教育の徹底などを求めてきたが、悪質さを増している」と批判しています(『琉球新報』2024年7月4日付)。
そこでより強い対応、具体的には「日米地位協定の改定」などを求めることが必須です。
被害者支援という点でも「日米地位協定改定」は必須です。
山本章子琉球大学准教授は未成年者のケアは必須であり「県としても被害者の治療やカウンセリングなど、地位協定で負担できない範囲の費用負担を検討すべきである」と発言しています(『沖縄タイムス』2024年6月28日付)。
直ちに沖縄県が精神的ケアに着手することも必要です。
ただ、アメリカ兵犯罪から生じた費用は沖縄県が負担すべきものではありません。当然、鬼畜的犯罪を犯したアメリカ兵、それが無理ならアメリカ軍に支払わせるべきです。
「地位協定で負担できない範囲の費用負担」があれば、「地位協定」の欠陥と言わざるを得ません。自公政権はただちに地位協定改定にとりくむべきです。
アメリカ兵犯罪の費用負担を日本、つまり私たちの税金で支払うことほどバカげたことはありません。
「地位協定改定」こそ「先送りできない課題」であり、岸田自公政権はただちにとりくむべきです。
(2)アメリカ兵性犯罪を「隠ぺい」した自民党・公明党への「監視」と選挙で意志表示を
2024年3月27日に岡野正敬事務次官がエマニュエル駐日大使に綱紀粛正と再発防止の徹底を申し入れていたと林芳正官房長官が記者会見で発言したことからすれば、3月段階では少なくとも川上陽子外務大臣はアメリカ兵の性犯罪を知っていたことになります。
外国政府に抗議するのに岸田首相が知らないということがあるでしょうか?
そこで4月のアメリカ大統領との会談の成功を演出するため、6月の沖縄県議会選挙で自民党・公明党候補が不利にならないため、6月23日の沖縄での慰霊祭で批判など受けないためといった、「選挙」と「政治都合」のために岸田自公政権が「隠ぺいした」との批判が多くなされています。
「選挙」と「基地」の関係で言えば、2016年7月の参議院選挙後に安倍自公政権は高江のヘリパッド工事を強行しました。
2024年6月16日の県議会選挙後に辺野古新基地建設で大浦湾側の軟弱地盤の本格改良工事に着手することを沖縄県に伝えたことに関しては、『琉球新報』2024年7月4日付が「選挙への影響を避けてタイミングを図る」と指摘するなど、自民党・公明党は「選挙」を意識したと見做される基地対応をしてきました。
「隠ぺいの意図はない」と言うかもしれませんが、アメリカ兵性犯罪の事実を沖縄県に伝えなかったことで被害者女性への補償や精神的な支援が遅れたこと、地域住民への安全喚起等の対策をとる機会を失わせた点で、国民の命と安全を守るという政府の役割を果たさず、岸田自公政権の「重過失」です。
2024年3月27日に岡野正敏事務次官がエマニュエル駐日大使に綱紀粛正と再発防止の徹底を申し入れていたと言いますが、岸田首相が外務大臣から報告等を受けていないのであれば、外務大臣が首相の判断も得ずに外国政府に抗議した上、アメリカ兵性犯罪を「隠ぺい」したことになります。
そうした対応は沖縄県民の安全を考えなかったことになり、川上陽子氏は「大臣」どころか「政治家」失格です。
また、外務大臣から岸田首相に報告がなかったのであれば、岸田首相の「ガバナンス」は効いておらず、国民を守るべき役割を担う「首相」としての資質が問われます。
岸田首相はかつて「聞く力」と発言していました。
そうであれば、アメリカ兵から性犯罪を受けてきた女性たち、家族を強姦のうえ殺された遺族たちの声を岸田首相は真剣に聞くべきです。
分かっているだけでも1945年から1000件以上の米兵の性犯罪、1972年からアメリカ軍人の犯罪の検挙数は6163件もの数にのぼっていることから、不平等な日米地位協定の改定を含めた対応こそ、岸田首相が頻繁に発言する「先送りできない課題」です。
今回の隠ぺい事件がきっかけとなり、あらたにアメリカ兵の性犯罪が3件、明らかになりました。
アメリカ兵の性犯罪は2023年2月、8月、2024年1月にもあったのです!
アメリカ兵による鬼畜的性犯罪の多さに怒りがおさまらない人は多いのではないでしょうか。
なぜこれらの事件は公表されなかったのでしょうか!
3件とも不起訴だったから公表しなかったと林官房長官は発言しましたが、日本政府とアメリカ政府の「裁判権放棄密約」の結果、性犯罪はほとんど起訴されない状況もあることから、不起訴=性犯罪がなかった、とはなりません。
なぜ「不起訴」だったのか、「裁判権放棄密約」に基づく不当な不起訴でないか、この問題もさらに調べる必要があります。
そもそも、本当に日本国民のことを考えているのであれば、岸田首相こそアメリカ兵の卑劣な性犯罪に真っ先に怒り、アメリカに抗議すべき重大問題です。
ところが岸田首相がテレビなどでアメリカに抗議した事実は報じられず、日本政府がアメリカに強く抗議した形跡すらありません。
これが日本国民を守るべき政府のあり方でしょうか?
こうして被害を受けてきた女性やその家族たちの声に岸田自公政権が「聞く力」をもたず、さらなる被害者を出さないための行動を岸田自公政権がとらないのであれば、自民党や公明党は「国民を守る」という政府の役割を果たしていません。
日本国民を守らない自民党・公明党政権に対して衆議院選挙、または地域の選挙で主権者意志を示すことが必要です。
同じカテゴリの記事
- 2024年11月20日
【壊憲・改憲ウォッチ(45)】玉木雄一郎国民民主党代表の不倫相手と憲法審査会
- 2024年9月10日
【壊憲・改憲ウォッチ(44)】宮古島と日本軍の「慰安所」
- 2024年7月4日
【壊憲・改憲ウォッチ(43)】相次ぐアメリカ兵の「性犯罪」と岸田自公政権の「隠ぺい」