【壊憲・改憲ウォッチ(31)】「核軍縮」? 「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
1.「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」
2023年5月19日、広島で開催されたG7サミットで「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」が発表されました(以下、「広島ビジョン」とします)。岸田首相は「核軍縮に焦点を当てたG7初の独立首脳文書である広島ビジョンを発出した。力強い歴史的な文書になった」と自賛しました。
2.「広島ビジョン」の問題点
しかし「広島ビジョン」には以下の問題があります。
(1) 「ヒバクシャ」の視点がない
まず、「広島ビジョン」には「ヒバクシャ」の視点が欠けています。「広島ビジョン」では、「77年間、核兵器が使われなかった」とされています。しかし、「核製造」「核実験」などでは多くの人々がヒバクしました。
アメリカのビキニ水爆実験(1954年)では「第五福竜丸」を含め、多くの日本人が「ヒバク」しました。マーシャル諸島の人々もヒバクしました。ビキニ水爆実験でヒバクした人々はいのちや故郷を失い、健康被害などに苦しんできました。
フランスは1966~1996年、ポリネシアのムルロア環礁とファンガタウファ環礁で、計193回の核実験を実施しました。周辺の島で白血病や甲状腺がんにかかる人が出ています。2021年7月27日、フランスのマクロン大統領は訪問先の同国領ポリネシアのタヒチ島で演説し、「(フランスの核実験場となった)ポリネシアにフランス国民は負債がある」と述べ、健康被害などへの責任を改めて認めました(『日本経済新聞』2021年7月30日付)。
「広島ビジョン」には、ウラン鉱山で採掘作業、核開発・実験に駆り出された「労働者」、原水爆実験でヒバクした住民(マーシャル諸島やネバダ、セミパラチンスクなどの人々)、や漁民(第五福竜丸の漁師など)、1945年から60年にかけ、普通の武装で爆心地に向かって突撃訓練をさせられた兵士(いわゆる「アトミック・ソルジャー」)といった「グローバルヒバクシャ」の視点が欠けています。
(2) アメリカなどの立場の正当化
「広島ビジョン」では、「我々は、ロシアのウクライナ侵略の文脈での、ロシアによる核兵器の使用の威嚇、ましてやロシアによる核兵器のいかなる使用も許されないとの我々の立場を改めて表明する」とのように、ロシアの核兵器の威嚇や使用は「許されない」とされています。
一方、「我々の安全保障政策は、核兵器は、それらが存在する限り、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争及び強制を防止すべきとの了解に基づいている」(訳は飯島による)とのように、アメリカ、フランス、イギリスなどの「核抑止」が肯定されています。
(3)「核廃絶」の具体的な時期や手段が提示されていない
「我々が望む世界を実現するためには、その道がいかに狭いものであろうとも、厳しい現実から理想へと我々を導く世界的努力が必要である」とのように、「広島ビジョン」では「核兵器の廃絶」が言われています。目的は正当です。ただ、いつまでに、どのように「削減」していくのか、具体的な時期や手段が記されていません。
(4)原発の推進・正当化
「原子力発電又は関連する平和的な原子力応用を選択するG7の国は、原子力エネルギー、原子力科学及び原子力技術の利用が、低廉な低炭素のエネルギーを提供することに貢献することを認識する」とのように、「広島ビジョン」では原発の推進がうたわれています。
2023年2月段階でも27399人が依然として避難生活を余儀なくされたり、「原発関連死」と認定された人は2353人にもなります。まだ福島の復興は道半ばです。にもかかわらず、広島ビジョンでは原発が推進されています。
岸田首相は「フクシマ」へのまなざしにも欠けています。
3.おわりに
「広島ビジョン」を好意的に報じるメディアも少なくありません。ただ、「広島ビジョン」の内容を見ると、「核抑止論」が肯定され、いつまでに、どのように核兵器を廃絶するのかが明記されないなど、内容的な成果はほとんどありません。
G7の首脳が広島に集まったというだけであれば単なるパフォーマンスにすぎません。
「広島を政治利用するな」という批判が岸田首相に向けられています。G7首脳会談や「広島ビジョン」を成果として宣伝し、支持率が上がったらそれを成果として衆議院の解散などと考えていたのであれば、それこそ岸田首相は「広島を利用した」ことになります。
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