【壊憲・改憲ウォッチ(30)】国会議員の任期延長の改憲論 ~長谷部恭男教授への国民民主党・玉木雄一郎議員の批判を手がかりに~
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
2023年6月1日衆議院憲法審査会で、国民民主党の玉木議員は以下の発言をしました。
「長谷部先生のような研究者と私たち国会議員との間には根本的な違いがあると思います。学者は既存の条文の解釈を出発点にして体系的に学説を組み立てていくのに対して、私たち国会議員は立法者であって、それゆえ、たとえ蓋然性が低くても、可能性がある限り、国民の生命や権利を守るためにあるべき法制度を構築する責任を負っているはずです。危機に備えるかどうかを決めるのは学者ではありません。それは、国民の生命や権利を守る責任を負った私たち国会議員に他なりません」
玉木雄一郎氏の上記の発言からすれば、憲法研究者は国民の生命や権利を守ることを考えていないと考えているようです。
2021年6月2日、私は参議院憲法審査会に参考人として出席しました。その時、私はいま憲法改正を議論すべき時期でなく、コロナ感染で大変な状況にある市民のために国会が対応すべき旨の発言をしました。
当時、父が入院していたこともあり、病院が大変な状況にあることを実感していました。
憲法審査会に参考人として出席する前日、経済的に大変な状況の学生から相談を受けていました。彼だけでなく、それまでもバイトができずに経済的に大変な状況にある学生たちから、退学を含めた相談などを受けてきました。
「授業料が払えない」などと学生たちが話しているのを聞くと、本当に心が痛みました。
こうした状況の中、私を含む憲法研究者は「生存権」(憲法25条)や「幸福追求権」(憲法13条)、「教育を受ける権利」(憲法26条)の実現を求めた法適用や法制定を求めてきました。
「学者は既存の条文の解釈を出発点にして体系的に学説を組み立てていく」との玉木雄一郎氏の発言は悪質なレッテル張りです。6月8日の憲法審査会での玉木雄一郎氏の発言を借りればまさに「フェイクニュース」です。
一方、玉木雄一郎氏をはじめとする政治家たちはコロナ禍で市民のいのちとくらしを守る行動をしてきたのでしょうか?
コロナ感染が続き、倒産などが増えれば自殺者、とりわけ若い女性の自殺者が増える危険性があるので迅速に対応すべきと私を含む研究者たちは主張していました。
しかし自民党や公明党の政治家たちはコロナ感染拡大が大変な2020年、2021年に長期間、国会すら開かず、市民への支援を迅速に実施しませんでした。
その結果、残念ながら倒産は増加、自殺者、特に若い女性の自殺者は増加しました。
市民が大変な状況にある中、市民への支援をおざなりにして「憲法改正」「憲法改正」と主張してきた、玉木雄一郎氏のような政治家たちが市民のために何をしてきたのでしょうか?
「たとえ蓋然性が低くても、可能性がある限り、国民の生命や権利を守るためにあるべき法制度を構築する責任を負っている」などと玉木雄一郎氏はもっともらしいことを言います。
しかし憲法が施行されてから76年間、一度も生じたことがない事態を想定しての憲法改正と、コロナ感染や自然災害で今も大変な状況にある市民への支援、政治家はどちらを優先すべきでしょうか?
6月上旬、死者5人、22都道府県270市区町村に「土砂災害警戒警報」が出される大型台風がありましたが、玉木雄一郎氏は6月8日の憲法審査会で憲法改正のために「閉会中審査」を求める一方、こうした被害者や台風への対策について何も発言しませんでした。
これが「国民の生命や権利を守る責任を負った私たち国会議員」なのでしょうか?
国民のことなど考えない口先だけの政治家という点で、改憲5会派についても話をすすめます。
自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会は立法機能と行政監視機能という「国会機能の維持」のために国会議員の任期延長の憲法改正を主張します。
ただ、繰り返しますが、コロナ感染拡大が大変な2020年、2021年に長期間、国会すら開かず、大変な状況にある市民に迅速な支援をしなかった自民党や公明党が、立法機能が重要として憲法改正を主張しても説得力があるでしょうか?
コロナ禍でも長期間、国会を開催しない自民党や公明党を憲法審査会で真剣に追及しない日本維新の会、国民民主党、有志の会、本当に国会機能の維持が重要だと思っているのでしょうか?
2020年や2021年のコロナ禍でも国会召集が引き伸ばされたことからすれば、かりに国会議員の任期延長の憲法改正が実現すれば、恣意的に選挙が引き伸ばされ、国会議員がその地位に居座るのではないでしょうか?
自然災害に対しても憲法改正ではなく、大規模な自然災害が起こった際の交通網の確保や避難所での生活用品の備蓄などを事前に議論し、整備することが必要ではないでしょうか?
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