【壊憲・改憲ウォッチ(23)】「安保3文書」と憲法
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
2022年12月16日、岸田自公政権は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の「安保3文書」を閣議決定しました。
「安保3文書」については、憲法的に以下の問題があります。
(1) 世界中での自衛隊の武力行使を容認する「安保法制」を前提とする「安保3文書」は、「武力の行使」「戦争」を禁ずる憲法9条1項に違反します。
(2)「敵基地攻撃能力の保有」は、歴代の政府見解でも憲法で保有を禁じられた「戦力」に該当し、憲法9条2項に違反します。
(3) 自衛隊配備や強化、とりわけ南西諸島での自衛隊配備・強化は、自衛隊員、基地周辺の市民、医療関係者等の生命や身体等を危険にさらすため、「戦争や軍隊により生命や身体、健康を奪われたり脅かされない権利」である「平和的生存権」(憲法前文等)侵害の危険性があります。
(4)「戦争できる国づくり」のための軍事的合理性を優先する「安保3文書」は、憲法の平和主義から正当化できません。
(5)「戦争できる国づくり」のため、自治体をさらに管理下に置くことも目指す「安保3文書」は、「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」の実現にとっても重要な「地方自治」の保障(憲法第8章)を一層、空洞化する危険性があります。
(6)平和的外交手段を追求せずに「軍事力」を背景にした「外交」は、「国際協調主義」(憲法前文)から正当化できません。
(7)軍事的合理性から学問や経済を国の統制下に置こうとする「安保3文書」は、「学問の自由」(憲法23条)、「財産権」(憲法29条)等を侵害する危険性があります。
(8)「自己中心的」主張が多い「安保3文書」は、「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」(憲法前文)とは相容れません。
(9)「軍事費大増額」は「幸福追求権」(憲法13条)、「生存権」(憲法25条)、「教育を受ける権利」(憲法26条)を保障する政策を困難にする危険性、憲法理念の実現を阻害する危険性があります。
上記(1)(2)(6)はいろいろなところで指摘されていますし、(3)は「改憲・壊憲ウオッチ(21)」で、(9)は「改憲・壊憲ウオッチ(19)」で指摘していますので、そちらをご覧ください。
ここでは(4)(5)(7)(8)について指摘します。
2013年の「国家安全保障戦略」は、外交と防衛を中心とした安全保障政策の文書になっているのに対して、今回の安保3文書では経済、技術、情報、宇宙、さらに自治体や海上保安庁、空港、港湾なども「国家安全保障」の名目で国の管理下に置くことが目指されています。
たとえば「国家防衛戦略」10・11ページでは以下のように記されています。
「外交力、情報力、経済力、技術力を含めた国力を統合して、あらゆる政策手段を体系的に組み合わせて国全体の防衛体制を構築していく」
「国家防衛戦略」12ページでも以下のように記されています。
「防衛上のニーズを踏まえ、総合的な防衛体制の強化のための府省横断的な仕組みの下、特に南西諸島における空港・港湾等を整備・強化するとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として、平素からの訓練を含めて使用するため、関係省庁間で調整する枠組みの構築等、必要な措置を講ずる」
自治体や民間団体についても「政府と地方公共団体、民間団体等との協力を推進する」(「国家防衛戦略」11ページ)とされ、「有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制も含め、海上保安庁と自衛隊の連携・協力を不断に強化する」(「国家安全保障戦略」22・23ページ)とされています。
「宇宙」も「我が国全体の宇宙に対する能力を安全保障分野で活用するための施策を進める」とされています(「国家安全保障戦略」23ページ)。
(7)ですが、2022年5月、岸田自公政権は軍事的合理性から経済や学問を統制下に置くことを可能にする「経済安保法」を成立させました。
「国家安全保障戦略」27ページでは、「経済安保法」の「着実な実施と、不断の見直し、更なる取組を強化する」とされています。
軍事的見地から、あらゆる領域の統制・動員が、「安保3文書」では目指されています。
(8)ですが、アメリカの顔色をうかがって核兵器禁止条約の会議にすら参加しない日本が「唯一の戦争被爆国として、『核のない世界』の実現に向けた国際的なとりくみを主導する」(「国家安全保障戦略」15ページ)と言ってみたり、気候変動対策に対して足を引っ張った国に与えられる「化石賞」を3年連続で受賞した日本が「気候変動」に言及した上で、「国際社会が共存共栄できる環境を実現する」としています(「国家安全保障戦略」11ページ)。
「自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を維持・擁護する」と繰り返し明記されていますが、安保法制、原発再稼働、安倍元総理国葬、辺野古新基地建設、軍事費大増額のための増税など、自民党や公明党は「民主主義」を実践してきたのでしょうか?
「人的交流等の促進」も明記していますが(「国家安全保障戦略」16・17ページ)、ウイシュマさんの死亡事件に代表される入管の非人道的行為、暴力、パワハラやセクハラ、低賃金や残業代未払いなど、人権問題満載の「技能実習生」への非人道的状況に本格的対応をしない日本政府、「自由」「基本的人権の尊重」「法の支配」を実践してきたというのでしょうか?
こうした状況にもかかわらず、「世界で尊敬され、好意的に受け入れられる国家・国民であり続ける」(「国家安全保障戦略」5ページ。太字強調は筆者)と言って、自民党や公明党は恥ずかしくないのでしょうか?
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