【壊憲・改憲ウォッチ(21)】戦闘で実際に負傷者が出ることを想定する「安保3文書」
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
2022年12月16日、岸田自公政権は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」という安保3文書を閣議決定しました。安保3文書を見ると、実際の戦闘を想定していることが「医療」に関する記述からも明らかです。
今回は安保3文書の「医療」に関する記述を通じて、岸田自公政権が実際の戦闘を想定していることを紹介します。
【1】 緊急外科手術に関する教育課程の新設、要員の増加
「防衛力整備計画」28ページには以下の記述があります。
「有事において、危険を顧みず任務を遂行する隊員の生命・身体を救うため、第一線から後送先までのシームレスな医療・後送体制を確立することが必要である」
「第一線救援に引き続いて実施する緊急外科手術に関して、新たに統合の教育課程を新設し、計画的な要員の育成を図る」(引用中太字強調は筆者による。以下同様)
「緊急外科手術」の教育課程の新設、計画的な要員の育成は、実際に戦闘する自衛官が負傷すること、しかも教育課程の新設を想定しなければならないほどの人数になることを想定していることになります。
【2】 自衛隊那覇病院の病床増加、地下等の機能強化
「防衛力整備計画」28ページには以下の記述があります。
「南西地域における衛生機能の強化に当たっては、自衛隊那覇病院の機能及び抗たん性〔攻撃を受けても機能を失わずに軍事的活動を実施する能力。飯島による補足〕を拡充することが有効と考えられることから、同病院の病床の増加、診療科の増設、地下等の機能強化を図る。その他の後送先となる自衛隊病院についても、建て替え等の機会を捉え、同様の機能強化を図る」
このように、南西諸島での戦争を想定していること、そのために負傷者の受入先として自衛隊那覇病院の病床の増加等を求めています。
「地下等の機能強化」からすれば、自衛隊那覇病院が攻撃されることも想定しています。
【3】自衛隊員の身体歴のデータ化
「防衛力整備計画」28ページには以下の記述があります。
「隊員の身体歴情報を電子化し、各隊員の医療情報を速やかに検索・閲覧できる体制を整える」
こうして自衛官の病歴等を自衛隊が管理するとされています。病歴等が管理される自衛隊に入隊しようとするでしょうか? 憲法的には「プライバシーの権利」からは正当化できない可能性もあります。
【4】 血液製剤の確保・備蓄のための体制づくり
「防衛力整備計画」28ページでは以下の主張がされています。
「戦傷医療における死亡の多くは爆傷、銃創等による出血死であり、これらを防ぐためには輸血に使用する血液製剤の確保が極めて重要であることから、自衛隊において血液製剤を自律的に確保・備蓄する体制の構築について検討する。また、血液製剤と並び戦傷医療において重要な医療用酸素の確保のため、酸素濃縮装置等についても整備を行う」
この記述からは、自衛隊員が「爆傷」「銃創」を受ける可能性、それらによる「出血死」を想定していること、そのための血液製剤の確保や備蓄のための体制づくりが目指されていることが分かります。
【5】 まとめ
以上、「防衛力整備計画」で記された「医療体制」目標を紹介しました。
要約すれば以下のようになります。
・緊急外科手術に関する教育課程の新設、要員の増加
・自衛隊那覇病院の病床増加、地下等の機能強化
・自衛隊員の身体歴のデータ化
・血液製剤の確保・備蓄のための体制づくり
以上の内容を見れば、安保3文書では、実際の戦闘を想定しての体制づくりが進められようとしていることが分かります。
「戦争できる国づくり」のため、「医療」も動員されようとしています。
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