【壊憲・改憲ウォッチ(20)】安保3文書と「抑止力」
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
1 はじめに
2022年12月16日、岸田自公政権は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」という安保3文書を閣議決定しました。
安保3文書では「敵基地攻撃能力の保有」が打ち出されました。
外国を、場合によっては先に攻撃することを可能にする安保法制や敵基地攻撃能力の保有は「戦争」のためでなく、相手国に武力行使を思いとどまらせる「抑止力」のためと岸田政権、自民党や公明党などは主張します。
実際、安保3文書のうちの一つ、「国家防衛戦略」5ページでは、以下のように主張しています。
「〔侵略をする〕国から自国を守るためには、力による一方的な現状変更は困難であると認識させる抑止力が必要であり、相手国の能力に着目した自らの能力、すなわち防衛力を構築し、相手に侵略する意思を抱かせないようにする必要がある」
外国を攻撃できる能力を保有すれば、日本に対する武力攻撃は抑止できるというのが岸田自公政権の主張です。
では、岸田自公政権が言うように「抑止力」が働いたのでしょうか。安保3文書に対しての近隣諸国の対応を見てみましょう。
2 近隣諸国の対応
(1) 朝鮮民主主義人民共和国
『産経新聞』(2022年12月20日付)によれば、「安保3文書」で「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有などを明記したことに反発する談話を発表し、「日本の新たな侵略路線の公式化」と非難しました。
その上で、「どれほど憂慮し、不快に思っているかを実際の行動で示していくと述べ、強力な対抗措置を取る姿勢を示した」(太字強調は筆者。以下同様)とのことです。
(2) 中国
『読売新聞』(2022年12月22日付〔電子版〕)では、「〔2022年〕12月16日から沖縄県南方の西太平洋で活躍している中国軍の空母「遼寧」を中心とする空母打撃軍が、日本の南西諸島への攻撃を想定した訓練を実施していることがわかった」と報じられています。
こうした軍事訓練は「習近平国家主席が、日本政府の『国家安全保障戦略』など安保3文書の閣議決定に時期を合わせて訓練を開始するように指示した」とのことです。
(3) ロシア
『産経新聞』(2023年1月3日付〔電子版〕)によれば、ロシアのルデンコ外務次官は、岸田政権が平和的発展の道を放棄して軍事化の方向に移行しつつあると指摘し、「ロシアやアジア太平洋地域への深刻な脅威だ」と述べました。
そしてこの方針が継続されれば「ロシアへの軍事的脅威を食い止めるため適切な対抗措置を取らざるを得ないとも警告した」とのことです。
3 小括
以上、紹介したように、「抑止力」どころか逆効果であり、中国、ロシア、朝鮮に軍拡や軍事訓練の口実を与えています。
岸田自公政権の安保3文書改訂は東アジアの平和を乱すものになっています。
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