【壊憲・改憲ウォッチ(16)】安倍元首相の国葬と憲法 8月16日の集会での発言から
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
2022年8月16日18時から新宿駅西口で、「安倍「国葬」やめろ! 緊急市民集会&デモ」が開催されました。
発言者は作家の落合恵子さん、ルポライターの鎌田慧さん、評論家の佐高信さん、ジャーナリストで武蔵大学教授の永田浩三さん、現代教育行政研究会代表の前川喜平さん、そして私です。
以下の通り発言したわけではありませんが、今回は私の発言原稿を紹介させて頂きます。
岸田首相は「民主主義を守りぬく」ために「国葬」と言っています。
安倍元首相の殺害は許される行為ではありませんが、国葬も憲法からは認められません。
さまざまな世論調査をみても、国葬反対が多数を占めています。
こうした状況で国葬を実施することが「民主主義」でしょうか。
国葬の際、企業や学校で黙とうなどを求めるのかどうかについて、8月15日の政府答弁書は「検討中」として、「求めない」とは回答していません。
2020年10月、中曽根元首相の合同葬に際しては、文科省が国立大学などに黙とうの実施や歌舞音曲の自粛を求めました。
国葬は合同葬より格が上となるため、黙とうなどが求められる可能性があります。
国葬だから全国民は黙とうせよ、弔意を示せ、これが「民主主義」でしょうか。
「全体主義」です。
安倍元首相の国葬は憲法14条の「法の下の平等」からも正当化できません。
日本国憲法では、人の価値は「平等」です。
安倍元首相の価値は高いが一般市民の価値は高くない、こうした主張は日本国憲法では認められません。
たとえば今、コロナ感染の中で医療関係者の献身的な仕事は、日本社会に多大な貢献となっています。
安倍元首相の功績は卓越しているから「国葬」とした岸田首相の判断は「政治家の思い上がり」です。
安倍元首相の国葬は「法の下の平等」から正当化できません。
国葬には私たちの税金が使われます。
37億円とも報じられています。
国の予算のあり方を閣議決定だけで決めたことは憲法83条の「財政民主主義」からも正当化できません。
いま、コロナ禍で自殺者が増加しています。とくに20代の女性の自殺者が増えています。8月の大雨でも農家などには大きな被害が生じています。
岸田自公政権が口先だけでなく、本当に市民のことを考えるのであれば、国葬ではなく、困窮する市民を救うためにこそ国のお金を使うべきではないでしょうか。
政府や教育委員会などの公的機関から「黙とう」や「弔意」を示すように求められたら、とりわけ同調圧力の強い日本では事実上、「黙とう」などをせざるを得ない状況に置かれます。
気の弱い人ほど、心ならずも黙とうや敬意を示す行動をとらされる可能性があります。
自分の思いとは違う行動をとることを余儀なくさせる国葬は憲法19条の思想及び良心の自由からも正当化できません。
学校で黙とうや弔意を示すことを先生から求められたら、子どもたちは先生に逆らうことができず、従うことになるでしょう。
とりわけ低学年ほど先生から「黙とうしろ」と言われたら、子どもたちは黙とうすることになるでしょう。
先生が学校で子どもたちに黙とうさせれば、子どもたちに「安倍元首相は偉い人」とのイメージを植え付けることになります。
学校をこうしたマインドコントロールの場にしても良いのでしょうか?
「旭川学力テスト事件」で最高裁判所は、「一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法26条、13条の規定上からも許されない」と判示しています。
学校で先生が子どもたちに安倍元首相に黙とうなどをさせる状況は、「一方的な観念を子どもに植えつける」結果をもたらし、子どもたちの「教育を受ける権利」(憲法26条)からも正当化できません。
そもそも岸田首相が安倍元首相の国葬を決めたのはなぜか。
いろいろ言われますが、一つは憲法改正にはずみをつけるためです。
実際、岸田首相は「安倍元首相の思いを受け継ぎ」、憲法改正を実現すると主張しています。
憲法改正は安倍元首相の思いを実現させるために行われるべきものでしょうか?
こうした理由で憲法改正を行うのであれば、最たる「国家の私物化」です。
そしてなにより警戒すべきは、メディアでも報じられているように、旧統一教会と「濃厚接触政党」である自民党の憲法改正案は、旧統一教会の憲法改正案と極めて似ています。
自衛隊明記の憲法改正や緊急事態条項の導入など、旧統一教会が主張する憲法改正と同様の自民党の改憲案、私たちは認めても良いのでしょうか?
また、選挙でも旧統一教会が自民党を支援しており、安倍元首相が統一教会票の調整役をしていたとも報じられています。
自民党が提案した憲法改正案が国民投票にかけられた際、旧統一教会が自民党の支援活動をしないと断言できるでしょうか?
2021年、国会で憲法改正国民投票法の改正審議がされました。
野党は外国資本や外国政府の影響を受けない法整備をすべきと国会で主張しましたが、自民党は拒否してきました。
外国の影響を受けない法整備を自民党が拒否したのは、憲法改正国民投票でも自民党が旧統一教会の支援を受けるためではないでしょうか。
2012年に自民党が作成した憲法改正草案では、政治と宗教が関係を深めることが可能になります。
旧統一教会の「濃厚接触政党」である自民党が主導する憲法改正はとても危険です。
善良な市民の人生や家庭を崩壊させてきた団体と密接な関係を持ち続けてきた自民党に憲法改正を語る資格などありません。
旧統一教会の影響を否定できない自民党の改憲案、さらには旧統一教会の支援を受けることが法的にも排除されない国民投票法、こうした国民投票での憲法改正には決して賛成できないと申しあげ、私の発言を終わりにします。
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