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【壊憲・改憲ウォッチ(12)】防衛費(軍事費)対GDP比2%以上をどう考えますか?

2022年6月13日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】はじめに

自民党や日本維新の会は、防衛費(軍事費)をGDP比2%以上にすべきと主張しています。そうなれば、5兆円以上の軍事費の増額になります。アメリカ、中国に次いで、世界第3位の「軍事費大国」になります。こうした主張をどう考えたらよいでしょうか?

【2】 防衛費(軍事費)の実態

ここでいくつか事例を挙げます。

(1)グローバルホーク(GH)導入
2014年11月、安倍自公政権は無人偵察機グローバルホーク3機(約550億円)導入の決めました。しかし、陸上、海上、航空自衛隊が必要だと要望したわけではありません。そこで3自衛隊での検討(=押し付け合い)の末、購入されたグローバルホークは南西諸島の海を監視することにしました。ただ、アメリカから購入したグローバルホークは「ブロック30」と呼ばれる旧式で、海洋監視に不向きでした。

導入から廃棄までの「ライフサイクルコスト」も、機種選定前はアメリカから約1700億円と説明されていました。ところが機種選定後、アメリカはグローバルホークの「ライフサイクルコスト」を3269億円に修正しました。2017年4月、グローバルホーク本体の価格もアメリカ政府から630億円に修正されました。こうした修正が行われるのは、グローバルホークをアメリカ政府からFMS(対外有償軍事支援)という方式で購入したからです(FMSは後述)。

さらにグローバルホークの維持管理のため、アメリカ人技術者が日本に滞在することになりますが、40人の技術者に30億円もの生活費が日本から支払われます。1年間に一人約7500万円。さぞぜいたくな生活ができるでしょう。
グローバルホークについては『共同通信』2021年12月25日付で以下の記事も配信されています。

“安倍政権が、運用・維持費だけで年間130億円に上る米国製の無人偵察機グローバルホークを巡り、20年春に導入中止を伝達したが、同年夏に一転して継続を決めていたことが分かった。米国から調達予定だった地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の断念を受け、当時のトランプ大統領に配慮したため。複数の日米関係筋が25日明らかにした。

日本の安全保障上の必要性などを防衛省が考慮して導入中止を決めた案件が政治判断で覆った格好。「過剰なトランプ氏への気遣い」(関係筋)の結果、機体取得費など613億円に加え多額の運用・維持費がかかり、国民の理解が得られるか不透明だ。”

さらに2021年7月21日、アメリカ空軍は2022年会計年度の予算案で、20機保有する「ブロック30」の全機を退役させる方針を示しました。理由として、空軍幹部は公聴会で「我々が直面している中国の脅威に対応できる設計になっていない」と証言しました。防衛省関係者は「中国は対空兵器、電磁波を使った妨害の能力を高めているが、ブロック30は他国から妨害を受けるような状況での運用が想定されておらず、台湾海峡の有事でも使えない」と述べています(『朝日新聞』2021年8月29日付〔電子版〕)。しかし安倍自公政権の決断により、自衛隊はこのブロック30を20年間、1年間で130億円かけて運用することになります。

(2)イージス・アショア導入
「安倍政権が米国製兵器を大量に購入する象徴の一つ」と称される、地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の導入も紹介します。

2017年12月19日、安倍自公政権はアメリカ製イージス・アショア2基の導入を閣議決定しました。ところが2020年6月、河野防衛大臣(当時)はイージス・アショアの秋田や山口への配備を断念すると発表しました。ブースター(迎撃ミサイルの推進装置)を自衛隊の演習場内や海上に落下させると住民には説明してきました。ところが確実にブースターを演習場や海に落下させられないことが判明したこと、確実にブースターを演習場や海に落下させるためにはシステム全体の改修が必要となり、2000億円の費用と10年ちかい歳月がかかることがイージス・アショア配備断念の理由とされました。イージス・アショアを構成するレーダーとしてロッキード社のSPY-7が選定されましたが、なぜ現物が存在しないSPY-7が導入されたのか、その理由も明らかではありません。

2020年12月、菅自公政権は陸上イージス・アショアの代替措置として、SPY7レーダーを搭載する「イージス・システム搭載艦」の導入を閣議決定しました。しかし、政府が導入を決めた代替艦「イージス・システム搭載艦」2隻の総コストは少なくとも9000億円と試算されていました。陸上配備型のイージス・アショアの総コストは計画当時には4500億円とされていたので、その2倍近い増額になります。2000億円もの追加費用がイージス・アショア断念の理由とされたのに、その代替艦に4500億円以上かかるというのはいかがなものでしょうか?

そもそも、イージス・アショアにいくらかかるのか、導入当初から適切な説明がありません。「イージス・アショアには一体、いくらのコストがかかるのか。800億円、1000億円、4664億円……。さまざまな数字が躍ったが、総費用はつかめないままだ。防衛省が停止の理由に挙げたコストも参考値に過ぎなかった」と報じられています(『毎日新聞』2020年6月22日電子版)。

そしてイージス・アショアは何のために配備しようとしたのでしょうか? 2017年4月27日、米上院軍事委員会でのハリス米太平洋軍司令官(当時)は、「日本はTHAAD(高高度防衛ミサイル)かイージス・アショア、あるいは両方の導入を決断すべき」、「日本がこれらを購入すれば、我々が配備しなくても済む」と発言しています。安倍自公政権は、アメリカの軍事目的のための兵器を私たちの税金で買ったのです。

(3)FMS(対外有償軍事支援)
FMS( Foreign Military Sales )による兵器購入額は2011年度までは年間500億円から600億円でしたが、第2次安倍自公政権以降、FMSによるアメリカ兵器の購入額は増大しました。FMSはアメリカ側が兵器の価格や納期を決めるなど、アメリカ側の「いいなり」になる取引です。2019年度には約7000億円にもなっています。「バイ・アメリカン」(アメリカ製品を買え)というアメリカの要求を受け、安倍自公政権以降、アメリカ兵器の爆買いが続けられてきました。

安倍自公政権はたとえば、

・何のためか、目的も明らかでない兵器(たとえばグローバルホーク)
・アメリカ軍が使用しない「旧式」兵器(水陸機動団が使用する水陸両用強襲車AAV7はベトナム戦争時に開発されたがアメリカでは生産中止)
・価格が当初の提示額を大幅に上回る兵器(F35戦闘機は当初1機96億円でしたが2016年には181億円、配備後は維持費もかかる)

を購入してきました。

【3】防衛費5兆円、暮らしに使えば

上記のタイトルは、『東京新聞』2022年6月3日付1面の見出しです。同記事では、防衛費5兆円を暮らしに使えば、「教育なら 大学授業料や給食無料に」「年金なら 一人年12万円増額」「医療なら 負担ゼロ」と書かれています。

『東京新聞』2022年6月3日付一面では、以下のような試算が掲載されています。

・大学授業料の無償化 1.8兆円
・児童手当の高校までの延長と所得制限撤廃 1兆円
・小・中学校の給食無償化 4386億円
・年金受給者全員に1年間12万円の増額 4兆8612億円
・公的保険医療の自己負担額ゼロに 5兆1837億円
・現在10%の消費税率を2%引下げ 4兆3146億円

【4】 どう考えますか?

(1)巨大な税金の無駄遣い
今までグローバルホークやイージス・アショア導入状況を紹介しました。現場から要望等があり、その要望を受けて兵器などを購入するのであれば、まだ理解できなくもありません。しかし第2次安倍自公政権以降の兵器の購入は、自衛隊からの要望ではなく、アメリカ政府に忖度したものが少なからず見受けられます。そうした兵器をどう使うのか、現場の自衛隊も困っているという状況も生じています。

安倍自公政権以降、たとえば「アベノマスク」のように、実際にほとんど役に立たず、いくら使われたのかもよく分からない、「税金の無駄遣い」の事例が多くあります。コロナの予備費の使途不明金が11兆ともされています(『日本経済新聞』2022年4月23日付)。第2次安倍自公政権以降、防衛費(軍事費)でもこうした無駄遣いが目に余ります。

ロシアのウクライナ侵略を口実に自民党や日本維新の会などは5兆円以上の軍事費(防衛費)の増額を主張しますが、こうした実態をみても、GDP比2%以上の軍事費(防衛費)の増額を適切と考えますか? グローバルホークやイージス・アショアのように、私たちの税金が無駄遣いされるだけではないでしょうか?

(2)市民のためにこそ使うべき税金
2021年の女性の自殺者は7068人、2年連続で増加しています。厚労省自殺対策推進室はコロナの影響と認識しています(『日本経済新聞』2022年3月15日付〔電子版〕)。「仕事が減り、この先どう生きていけばいいのか。子どもたちには2食で我慢してもらい、私は2日に1食が当たり前です」等、生活が大変な状況にある非正規女性も少なくありません。

立教大学の湯沢直美教授(社会福祉学)は「生活難で子どもの学費のための貯金がなくなったという声もある。進学断念などで格差が拡大し、固定化する恐れがある」と懸念を示しています(『西日本新聞』2020年9月10日付〔電子版〕)。文部科学省は2022年6月4日までに、2021年度に新型コロナウイルスの影響で国公私立大と短大、高等専門学校を中退した学生は計2738人、前年度より714人増えたと発表しました。休学者も824人増の5451人と発表しています(『日本経済新聞』2022年6月4日付〔電子版〕)。

人々のいのちやくらしを守るのであれば、自民党や日本維新の会が主張するように、軍事費をGDP比2%以上などでなく、生活苦で自殺者が出ないため、人々が幸せに暮らせるために予算を費やすべきではないでしょうか?

私たちの税金、しかも巨額の「税金の無駄遣い」を繰り返してきた自民党と公明党。市民のいのちとくらしを顧みず、軍事のことを中心に考える自民党や日本維新の会、そして自民党を選挙などで支える公明党。私たちは主権者として選挙で適切な意志を表明することが大事です。選挙に行きましょう。