【壊憲・改憲ウォッチ(4)】核シェアリング(核共有)について
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
【1】国際法違反のプーチン・ロシアのウクライナ侵略
2022年2月24日、プーチン・ロシアはウクライナへの侵略戦争をはじめました。女性や子ども、老人などの多くの一般市民が犠牲になり、戦争の恐怖に怯えています。失われた「いのち」「くらし」は決して取り戻せません。「戦争」「武力の行使」は言語に絶する悲劇をもたらします。決して認めてはいけません。ロシアのウクライナ侵略は、「基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権」を定めた国連憲章前文等、「武力不行使の原則」を定めた「国連憲章」2条4項違反、明確な国際法違反です。プーチン・ロシアには即時の「武力行使の停止」と「軍隊の撤退」を強く求めます。
【2】安倍晋三元首相・橋下徹氏らによる核シェアリング(核共有)論
2月27日のテレビ番組で、安倍晋三元首相や橋下徹氏は、日本でも核シェアリング(核共有)について議論すべきと発言しました。自民党内でも、たとえば3月2日の記者会見で高市早苗氏が核共有論議を始めるべきと主張しました。日本維新の会の議員は3月3日の憲法審査会でも核共有の議論を始めるべきと主張しました。国民民主党の玉木雄一郎代表も3月1日、非核三原則のうち「持ち込ませず」のあり方や解釈についての議論を進めるべきと主張しました。
【3】NPT(核拡散防止条約)体制はどうするの?
安倍・菅・岸田自公政権は「核兵器禁止条約」に反対してきました。その論拠の一つとして、NPT体制の下で核軍縮を進めると発言してきました。しかし、核共有を議論するということは、NPT体制下での核軍縮を断念するということでしょうか? NPT体制下で核共有は認められるのでしょうか? 実際、安倍氏の発言はNPTに公然と背いている旨の批判が中国外務省からなされています。それともNPT体制から脱退を検討するのでしょうか? NPT下で日本にも核共有を認めてほしいと交渉するのでしょうか? いずれにせよ、今でさえ機能していないNPT体制をさらに弱め、世界の平和にマイナスになる危険性があります。
【4】どんな「核」を想定?
核シェアリングを主張する人たちは、いったいどのような「核」を想定しているのでしょうか? 大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの「戦略核兵器」は敵の本国を直接攻撃できるのに対し、「戦術核兵器」は射程が短く威力も比較的小さいものが多く、戦場単位での使用が想定されています。いま、ドイツなどNATOの加盟国に配備されているアメリカの核は「戦術核兵器」です。冷戦時代には、西ドイツに侵入したソ連軍部隊をせん滅させるために使うといった想定がされていました。これを日本に当てはめると、「例えば南西諸島が中国の人民解放軍によって侵略された場合に自衛隊がアメリカの核で応戦するというような概念だ」と明海大学の小谷哲男教授(安全保障論)は説明しています(TBS News、2022年3月6日付)。つまり日本で核兵器を使うことを想定していることになります。本当にこんな議論をするのでしょうか?
【5】日本を危険にさらす核シェアリング論
それとも、「戦略核兵器」の導入を想定しているのでしょうか? それこそ日本への武力攻撃を呼び込みかねない、極めて危険な主張です。そもそもプーチン・ロシアがウクライナに侵略した理由は何でしょうか? ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、アメリカのミサイルが配備されることを「直接的脅威」とロシアが考えたためです。北方領土を日本に返さない理由として、ロシアはアメリカ軍基地が置かれることも理由にしています。2018年1月15日、ロシアのラブロフ外相は、日本が導入を決定した「イージス・アショア」について、ロシアが攻撃される恐れがあると警戒感を示しました。日本にアメリカの核が置かれたら、それこそ「ロシアへの脅威」として日本への攻撃がないと言い切れるのでしょうか?
【6】選挙で意志表示を
橋下氏や安倍氏の主張は物事の本質を見ない、的外れで無責任な主張が多くありますが、「核シェアリング」発言はそうしたレベルではありません。「戦術核」を日本に「共有」するのであれば、日本本土に核を落とす可能性もあります。「戦略核」であれば、ロシアからの攻撃を呼び込む可能性もあります。本当にそうした議論をするのでしょうか? 日本の平和を守るためには、こうした主張をしている、自民党、日本維新の会、国民民主党には次の参議院選挙を手始めに主権者の意志を示すことが必要です。
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