5.20「憲法破壊の『集団的自衛権』行使容認反対! 『安保法制懇』報告書を許さない! 戦争をさせない1000人委員会 5.20院内集会」を開催
5月20日開催された「憲法破壊の『集団的自衛権』行使容認反対! 『安保法制懇』報告書を許さない! 戦争をさせない1000人委員会 5.20院内集会」 について、前田哲男さんの講演の要旨をまとめましたので、掲載します。
(文責・事務局)
「安保法制懇」報告書に異議あり
前田哲男さん(ジャーナリスト・軍事評論家)
1.戦後最悪となった「憲法の月」
安保法制懇の報告書が提出された5月15日がどこから発したのか。
1960年の5月20日、54年前のこの日、改定された現行の日米安保条約が衆議院本会議で強硬採決されました。自民党のみによる単独採決、警察官を議場に配置した強硬採決でした。前日の5月19日、日米安全保障条約等特別委員会が開会された直後、横路節雄議員が質問に立った瞬間に、自民党から質疑打ち切りの動議があり、日米安保条約および地位協定等が採決されました。
2.「集団的自衛権」とは「攻守同盟」である
日米安保条約は性格から見ると、また日本の立場からすると、防御同盟と呼ばれるものでした。それを攻守同盟に変えようというのが、5月15日の安保法制懇の提言であり、またこれから模索している閣議決定の方向です。日本の施政のもとにある地域における共同行動ではなく、もっと広くアメリカが攻撃された場合の共同行動、アメリカが海外で武力攻撃をする場合の共同行動、というように安保を広げて解釈しようというものです。憲法第9条のもとで成立した安保条約を解釈によって変更しなければならないという、こういう側面を持っているわけです。
攻守同盟はどういった働きをするか、歴史の中から見つけることができます。今年は第一次世界大戦から100年という節目に当たります。サラエボでセルビアの皇太子夫妻が暗殺され、そのことをきっかけに第一次世界大戦へとひた走っていくわけですが、ひとつのテロ事件が国際戦争、世界戦争になっていく。それは攻守同盟の暴走、攻守同盟の玉突き的連鎖反応が生み出したものです。オーストリアはセルビアに最後通牒を突きつけました。オーストリアの背後にはドイツがいました。セルビアの背後にはロシアがいて、ロシアはフランスと同盟を結んでいました。ドイツはフランスと戦争する場合に、大きく北に迂回してベルギーを経由して、大きくフランスを迂回しながら包囲しました。
3.日本近現代史における「集団的自衛権=攻守同盟」の行使
(1)「日英同盟」と「日独伊三国同盟」
しかし、ここまではヨーロッパ戦争です。どうして世界戦争と呼ばれるか。日本とアメリカが加わったからです。日本は日英同盟に従って参戦しました。日露戦争の前に締結された日英同盟は防御同盟でした。その後、日英同盟は攻守同盟に変わります。日本は日英同盟に従って、イギリスの側に立ってこの戦争に加わることを宣言し、チンタオを陸軍と海軍が攻略します。今ミクロネシアと呼ばれるパラオといった島々をほぼ占領し、ドイツ領を日本領に変えます。第一次世界大戦の世界大戦たる所以が示されるわけです。
1915年には、中国に対し「21ヵ条の要求」という利権まみれの要求を突きつけ、ヨーロッパ世界が戦争に没頭している間に、これをほぼ呑ませました。中国近代史において特筆される1918年に行われた5・4運動は、中国の日本に対する侵略の告発であるといえます。北京大学の学生を中心に立ち上がった5・4運動は、1915年に日本政府が満州鉄道への日本の利権を始めとする様々な利権を21ヵ条にまとめて突きつけた、ということです。
この第一次世界大戦の戦利品のようなもので、さらに日本は1917年にロシア革命が起こり、ロシアが露仏同盟から離脱して、第一次世界大戦から、今度はシベリア出兵という革命干渉戦争を行いました。1921年まで陸軍、海軍をシベリアに遠征させました。このように攻守同盟であった日英同盟から日本は群島を植民地帝国にし、「21ヵ条の要求」を中国に対し突きつけていく、というふうに変貌させていくことになります。
もうひとつ日本は攻守同盟を結んでいます。1940年の日独伊三国同盟。つまり三国のうちどれかが戦争に入る場合、ドイツは前の年から、イギリス、フランスとの世界大戦に入っていきましたので、現在交戦中の国を除く第三国というふうに注釈が付いていますが、どこかの国が戦争に入った場合における自動参戦条項でした。この場合ドイツ、イタリアを戦争に巻き込んだのは日本でした。1942年、日本はパールハーバーから戦争を開始し、12月11日に、ドイツとイタリアが、アメリカに宣戦布告します。日独伊三国同盟の条文に従って、参戦義務を果たしたということになるわけです。
どうして日米安保条約が攻守同盟ではないのか。安保崩壊の性質ということから条約はできない、憲法の規定から攻守同盟にわたるような条文はできない、憲法9条に立ってみれば安保条約そのものが憲法に違反するということが背景にあると思います。攻守同盟と呼ばれていた軍事同盟が集団的自衛権と呼びならわされるようになったのは、国連憲章ができて以降です。それ以前は、攻守同盟とか同盟と呼ばれていました。
(2)「攻守同盟化」する日米安保協力
国連憲章の51条に集団的自衛権という概念と言葉が登場して以降、攻守同盟という言葉をふつう使いませんけれども、意味するところはまったく同じです。日本国憲法の下で安保第5条が結ばれた訳です。そこで集団的自衛権の行使にわたる規定を置くことができません。その他の国は違います。
例えば、オーストラリア、アメリカ、ニュージーランドの3ヵ国ではANZUSと言います。アメリカはフィリピンと相互防衛条約、韓国と相互防衛条約が結ばれました。これらを見ると日米安保条約との違いがはっきりとします。
アジア太平洋におけるANZUS、米比、米韓を見ますと、日米安保条約第5条にあたる、「日本の施政下にある地域における武力攻撃に共同して対処する」というくだりが、「太平洋地域における、いずれの当事国に対する武力攻撃が自国の平和および安全を危うくするものと認め」というふうになっています。字句の置き方が少し違うだけですが、攻守同盟であることがはっきりしています。
例えば韓国はベトナム戦争に際し、5万人の兵士3個師団、延べ30万人をベトナムに派遣しました。オーストラリア、ニュージーランドも戦闘部隊をベトナム戦争に派遣しました。湾岸戦争しかりです。
攻守同盟というのはそういうものであって、それは日本国憲法では結べないというのが、54年前の5月20日に強硬採決して、効力を発することになったその安保条約の調印した総理大臣、または批准書を交換した藤山一郎外務大臣、当時の局長長官だった林修三が国会で答弁したことでした。
当時の議事録には集団的自衛権はいかなる意味においても使えない、この条約はそうではない、日本が戦争に巻き込まれるからあり得ない、という言葉が残されています。それが今公然と覆されて集団的自衛権、すなわち攻守同盟としての安保条約が姿を現そうとしている。ならば少なくとも基地を返上すべきではないのか、というのがわたしの考えのひとつです。
4.「集団的自衛権」行使容認で「基地提供義務」は消滅する
もともとの安保条約を賛成するものではありませんが、しかし安倍さんの言うような形で日米同盟を深化させ、さらに推し進めることはアメリカにただ守ってもらうのではありません。アメリカを守るのはいいが、4類型、6事例という様なケースを挙げながら、アメリカに対し日本も協力していくということです。
ちょうど改定された日英同盟における日本のような役割をこれからアメリカに対して行うのであれば、それと引き換えに、アメリカが日本に持ってきた代償として、日本がアメリカに提供してきた安保第6条の言う基地、区域、及び施設の返還ないし削減ないし末梢をしなければなりません。でないとバランスが取れないではないか。
日米安保同盟は防御同盟としてアメリカに守ってもらう代わりに、日本はアメリカに基地を提供し、その基地は日本防衛のみでなくアメリカの国益、極東における国際の平和、安全の維持に寄与する為に使ってよろしい、と定めました。これで第5条の守ってもらうという立場と、第6条の基地を貸してあげるという立場でバランスが取れるわけです。決してただ乗りでもない、相互的な構造を取っています。
先ほどのANZUS、米比、さらにNATO条約にも基地提供という条文は義務としてありません。その代り、攻守同盟ですから、最初から応分の負担が条文の中に担保されています。日本の場合、それはない、安保の場合はそれがないから、条文の中に基地提供という条文を入れています。
今、総理大臣は日米同盟を深化させて、アメリカが攻撃された場合、日本も守るという形の協力をしようという、ならばそれは防御同盟を攻守同盟に転換させるものであり、安保条約の性格を根本的に変えるもので、第一に安保再改定が必要になる。同時に再改定される安保は基地条項を持たない、というふうにされなければならないと思います。せいぜい好意としての基地提供国というのはあるかもしれないけれど、義務としての基地提供国になるいわれはない、そうすべきだろうと思います。
しかし安保法制懇の議論をどこまで読んでも、その報告書を吟味してみても、記者会見を聞いても、基地負担を軽くしなければならないという意識はまったく浮かんでいないように思えます。それどころか、辺野古新基地計画は、着々と進行しているらしい。来年度予算に千八百数十億円という思いやり予算と呼ばれる、名の通り法的に素性の怪しい出所のはっきりしないような予算が計上される。つまり日米安保が深化していくということは、何もかもあげてしまうことのように思える。問題意識を欠いた対米従属の形にしか受け取れません。
5.安倍プレゼンの欺瞞
(1)「米艦船が邦人輸送」はありえない
15日の会見の日、長崎県にいました。海上自衛隊の大村基地で拡張工事をやっていまして、陸上自衛隊がオスプレイを調達した場合、それはどこに配置されるのかというと、大村基地周辺の人は大村基地になるのではないかと心配しています。それは現に進行中の新規防衛計画に書かれており、5年以内に起こることです。
安倍さんの記者会見は見れませんでしたが、後で驚きました。岸信介首相ほどの問題把握能力もない、非常に情緒的。岸信介はあのような言葉遣いはしませんでしたし、その論理は一貫していました。安倍さんは情緒に訴えたり、センセーショナリズムを語ることで、安保条約を防御同盟から攻守同盟へと転換させる口実に使っている。アメリカの艦船が日本人を輸送する場合に護衛艦が何もできない、これはおかしいじゃないか、というようなイラスト入りの大きなパネルを使って、説明しました。
そもそもアメリカの軍艦は朝鮮有事に対して、邦人を輸送するということはまずあり得ない、民間人を輸送するということはかなり想定しづらい。彼らはまず戦闘任務に就き、軍事物資の輸送にあたります。民間人輸送をこういう事態で、例えば湾岸戦争、イラク戦争の時にあったかというと、そういうケースを思い浮かべることはできない。つまり想定が破たんしています。
1997年に日米防衛協力の指針、通称ガイドラインを今年度中に改定し、間に合わせるためのタイムスケジュールに合わせて、集団的自衛権の報告書提出と記者会見、与党協議を行っていく。年内に日米防衛協力指針、つまり安保協力のための具体的な指針作成を日米間で、というのが安倍さんの目標ですが、今ある現行のガイドライン、旧ガイドライン、日本の周辺地域における事態、平和と安全に重要な影響を与える場合、周辺事態への協力、避難民への協力が明記されています。
アメリカの艦船が日本人を輸送するか、避難民の取り扱いについて、難民が日本の領域に流入してくる場合は、日本がそのあり方を決定するとともに、一義的に日本がそのあり方を決定するとともに、主として日本が責任を持ってこれに対応し、米国が適切な支援を行います。難民に対する対応は日本が主で、必要に応じてアメリカは対応するよ、というのがガイドラインの原則です。イラストで起こしたシーンは情緒に訴えるやり方です。
(2)PKO駆けつけ警護の非現実性
もうひとつ安倍さんが挙げたのは、PKOの駆けつけ警護です。日本のボランティア、NGOの人が拉致されたときに、今は武器使用規則があり、警護のための武器使用ができません。これを認めるべきだというものです。
集団的自衛権という攻守同盟とは別の枠組みです。国連の平和維持活動ですから、概念としては集団安全保障というカテゴリー、枠組みで論じなければなりません。安倍さんはそういうことは一切言わない。ただ危ない、危ないというようなシーンを想定して、これは重要だ、使えないのはおかしいじゃないか、という異議を唱えています。
私はカンボジアPKOの現地に5回くらい行きました。グアムも国連難民高等弁務官に基づく出動で行き、ザイール、ルワンダとの国境近くも見ました。そのとき、駆けつけ警護寸前の事態というのは確かにありました。現場で見ていましたので、駆けつけ警護というのはいかなるものであるのか、ということと同時に、安倍さんの言うことと全く違うということも分かります。
自衛隊は国連に対する差出し部隊です。主権は中央に政府がありますし、犯罪を犯した場合の司法権は日本政府にありますが、基本的に差出部隊です。現地での最高指揮官は、カンボジアPKOの場合、明石康さんが、カンボジア暫定統治機構代表として行使しました。彼が日本の言葉で言うと「指図」します。
国連が日本の部隊に駆けつけ警護を指図するはずがない。駆けつけ警護のような任務を国連の現地代表や日本のPKO部隊が命令する、指図するはずがありません。カンボジアPKOの場合、施設部隊は、工事とか橋の架け替えです。
ところが実態としては、差し出した場合の部隊として、任務を全くわきまえずに日本人ボランティア、NGOが窮地に落ちいった場合でも助けることができず、これはおかしいという短絡的で情緒的な反応をしています。
(3)グレーゾーン事態も机上の暴論
こうした4類型、これは第一次安倍内閣のものです。そして今回は6事例。こうした危機事態は、これから国会の論戦で批判されていくでしょう。こうした中でも、グレーゾーンというのはものすごく灰色の領域です。何がグレーでどこからブラックになっているかについては、誰が決めるのか分からない。特定秘密保護法の何が秘密か分からないというのと同じグレーの領域です。そこに自衛隊を出すという「マイナー自衛権」と呼ばれますが、これを憲法で行使できる自衛隊の領域にしようとしています。
グレーである、状況が深刻である、それこそ、まさしく軍隊ではなしに外交の出番、外交官が主役になるべきところであるはずです。こうした場合に自衛隊を出せば、向こうもそれに応じて軍隊を出してくるでしょう。対立と摩擦が発して戦争になる。戦争の引き金を引く、ちょうど第一次世界大戦が攻守同盟の玉突き現象として、世界大戦へと拡大していったのと重なります。グレーゾーンはグレーだから外交、話し合い、交渉なのであって、グレーだから軍事、自衛隊、というのは危険な考え方だと思います。
6.おわりに
5月15日に提出された安保法制懇の報告書および連日の安倍首相の会見は、54年前の今日成立した安保条約からでさえ逸脱していると言わざるを得ない。どうしても安倍さんが集団的自衛権の行使容認をするというのであれば、安保条約を破棄ないし再改定すべきだと思います。
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