日米ガイドライン改定による集団的自衛権行使容認と憲法
年内に改定される予定だった「日米防衛協力のための指針」(「日米ガイドライン」)について、来春以降へ改定を先送りすることを日米で合意したと報道されています。これは「集団的自衛権」をはじめとする安全保障に関する議論が、12月14日に行われる衆院総選挙だけではなく、来年4月に予定されている統一地方選挙に至るまで、争点になるのを徹底して回避しようとする策謀です。
「日米ガイドライン」は行政協定だから国会審議の対象ではないとして、政府間の合意だけで改定作業がすすめられていますが、憲法違反の「集団的自衛権」行使容認を反映させようとしていることからも明らかなように、現行法の範囲を逸脱するものです。また、民主主義的な手続きの観点からも許されるものではありません。
戦争をさせない1000人委員会事務局次長の飯島滋明さん(名古屋学院大学准教授)より、この「日米ガイドライン」改定の問題性について論考を寄せていただきましたので、掲載します。
日米ガイドライン改定による集団的自衛権行使容認と憲法
飯島滋明(名古屋学院大学准教授・戦争をさせない1000人委員会事務局次長)
(1)「日米ガイドライン改定」中間報告について
2014年7月1日、集団的自衛権の行使容認の閣議決定をした安倍政権は、引き続き集団的自衛権の行使にむけた政治をすすめている。そうした政治の一環として、2014年10月8日、日米両政府は「日米防衛協力のための指針」、いわゆる「日米ガイドライン」改定の「中間報告」を発表した。
「日米ガイドライン」改定により集団的自衛権行使を目指す安倍政権の手法は、「国の最高法規」(憲法98条1項)である憲法との関係で重大な問題がある。
(2)ガイドライン改定による安保条約の実質的変更の憲法問題
現行の日米安全保障条約の改正交渉の際、アメリカは「米韓相互防衛条約」や「米比相互防衛条約」と同じように、「共同武力行使領域」を「太平洋」とすることを日本に求めた。しかし、アメリカの戦争に巻き込まれることを危惧した日本政府は「海外で武力行使をする集団的自衛権は憲法上認められない」旨の主張をして、「共同武力行使領域」を「太平洋」とすることに抵抗した。アメリカ政府も、「内灘事件」、「砂川事件」、「ジラード事件」などの米軍基地闘争が激化するなどの状況の中、日本の中立化を恐れて「海外派兵は憲法上認められない」という日本側の主張を受け入れた。
そうした交渉の結果、「米韓相互防衛条約」や「米比相互防衛条約」で共同武力行使領域が「太平洋」とされたのと異なり、「日米安全保障条約」(1960年)では、「共同武力行使領域」が「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」(5条)とされた。米軍は「極東」の平和と安全のために日本に引き続き駐留することになったが(6条)、「極東」で日本がアメリカと共同で武力行使することは条約上の義務にされたわけではない。こうした安保改定交渉の結果や条約の規定からも明らかなように、日本が海外でアメリカと一緒に武力行使をするという意味での「集団的自衛権」は日米安全保障条約では認められていない。
ところが第2次安倍政権下で改定されようとしている「日米ガイドライン」は、60年の安保国会で大きな論戦となった「極東」の範囲や、97年のガイドラインでの「周辺事態における後方地域支援」という地理的および権限の制約を取り払い、地球のあらゆる場所での日米共同の武力行使、「集団的自衛権」を可能にさせようとするものである。さらには「宇宙」での日米軍事協力も目指されるなど、「空間的」な制約も取り払われている。中間報告ではさまざまな項目が挙げられているが、その具体的内容の一例を現行ガイドラインや2013年10月の日米安全保障協議委員会(いわゆる「2+2」)などで補足したので簡単に紹介する。
・情報収集、警戒監視および偵察
・訓練・演習⇒人道支援・災害救援訓練、オスプレイの低空飛行訓練、後方支援訓練
・後方支援
・アセット(装備品等)の防御
・防空およびミサイル防衛⇒経ケ岬へのXバンドレーダー配備
・施設・区域の防御⇒米軍施設・区域の防御
・捜索・救難⇒日本領海及び日本周辺の海域での捜索・救援活動
・経済制裁の実効性を確保するための活動⇒いわゆる「臨検」(船舶検査)
・非戦闘員を退避させるための活動
・避難民への対応のための措置⇒避難民に対する応急物質の支給
・海洋安全保障⇒機雷除去、シーレーン確保、海賊対処
・平和維持活動
・国際的な人道支援・災害救助
・能力構築⇒MV-22航空機の2個飛行隊導入、F35Bの2017年からの配備の開始
・防衛装備、技術協力⇒「武器輸出三原則」の緩和、F35製造への日本企業の参加
・情報保全⇒「秘密保護法」制定
・教育・研究交流
(3)なにが問題か
武力行使による国際紛争の解決を目指す安倍政権の政治は、武力行使による国際紛争の解決を禁止している憲法9条や憲法前文などの徹底した平和主義の理念とは全く相容れない。ガイドラインの改定により海外での武力行使を目指す安倍首相の政治も、やはり憲法前文や9条違反と言わざるを得ない。ただ、集団的自衛権の行使を認める安倍政権の問題はさまざまな形で論じられているので、ここでは「ガイドライン改定」による集団的自衛権行使にむけた安倍政権の手続的な問題を指摘する。
日米安保条約は、岸信介首相とアイゼンハワー大統領が署名し、異常な状況とはいえ国会での承認の手続きを経ている(ことになった)。一方、ガイドラインだが、「SDCにおいては、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の見直しに関する議論が行われ、ガイドラインの見直しに関する中間報告がとりまとめられました」と防衛省が発表したように(平成26年10月8日付「日米安全保障高級事務レベル協議(SSC)及び防衛協力小委員会(SDC)の概要について」)、局長級の「防衛協力小委員会」(SDC)の合意にすぎない。こうした実務的レベルの「ガイドライン」で、首相と大統領が署名し、手続的には国会の承認を経ている「日米安全保障条約」の内容を実質的に変える行為、日米安全保障条約で認められていない「海外派兵」「世界中や宇宙での日米軍事協力」を「指針」にすぎない「ガイドライン」の改定で認めることは許されるのか。たとえば企業の社長同士が交わした約束を、それぞれの企業の課長同士の話し合いで変えてしまうことが許されるだろうか。
もっとも、ガイドラインの改定は、2013年10月の「日米安全保障協議委員会」(いわゆる「2+2」)での見直しを受けたものであり、さらには安倍首相の意向を受けているので、単なる実務的レベルの話し合いではないというのかもしれない。ただ、安倍首相の意向によるガイドラインの改定だとしても、ガイドラインの改定は条約の締結、修正に際して国会承認を要件とする憲法73条3号との問題が生じる。
「条約」は形式的効力において法律以上に効力を持つなど、国民の権利・義務に重大な影響を及ぼすことから、その改正には主権者である国民に選ばれた国会議員で構成される「国会」の承認が必要とされている(憲法73条3号)。にもかかわらず、国会承認を得ないで安保条約の内容を実質的に変更する今回のガイドラインの改定は「安保条約の下克上」であり、条約改正に際して国会承認を要件とする憲法73条3号、「議会制民主主義」との関係で大いに疑問がある。1974年2月20日の衆議院外務委員会で、大平外務大臣(当時)は、「議会制民主主義制度のもとにおいて国会の条約審議権を十分に尊重することは政府の当然の責務であり、なかんずく国民の権利義務に対し重大な影響を与えるような条約につきましては、国会の審議を十分に尽くしていただかなければならないことは言うまでもありません」と述べている。
繰り返しになるが、海外で日本が武力行使をするという意味での「集団的自衛権」は日米安保条約では認められていない。にもかかわらず、「ガイドライン」改定で、世界のいたるところでアメリカと共同で武力行使をする「集団的自衛権の行使」を約束すれば、実際にはガイドラインで安保条約を変更することになる。また、集団的自衛権を行使するようになれば、日本人、とりわけ自衛隊員が海外で戦い、死傷者が出る可能性が高くなる。海外で戦うことになる兵士の安否を日本で心配することになる妻や子どもなどの家族にも大きな影響を及ぼす。つまり、日本人の生命に重大な影響を及ぼす可能性、大平氏の国会答弁で言えば「国民の権利義務に対し重大な影響を与える」可能性が高くなる。こうしたガイドラインの改定であれば、1974年2月20日の衆議院外務委員会での大平外務大臣答弁からしても、憲法73条3号の規定に従い、国会での審議、承認が必要となろう。
選挙の結果で今後の政治状況が大きく変わる可能性があるが、安倍氏は2015年5月以降、集団的自衛権関連法案を提出することを目指している。その時、「日米ガイドライン」を根拠にして、たとえばアメリカと約束したから集団的自衛権を認める法律が必要だと安倍氏が主張するのであれば、国会承認を得ないガイドラインの改定こそ、1974年2月20日の衆議院外務委員会での大平外務大臣答弁からも、そして憲法73条3号、「議会制民主主義」からも正当性がないものであることを問題にする必要があろう。
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