【壊憲・改憲ウォッチ(28)】自衛隊明記の憲法改正を主張する自民党・公明党など
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
【1】衆議院憲法審査会での自衛隊明記の改憲論
①自民党
2023年4月6日、衆議院憲法審査会で与党筆頭幹事の自民党・新藤義孝議員は9条改正について以下の発言をしました。
「私たちは、現行の9条1項、2項をそのまま維持した上で、9条の2として、前項の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を守るために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として自衛隊を保持する旨の規定を設けてはと提案しているわけであります」。
「私たちは、9条の2の第1項として、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督権者とするという政府内の統制と、第2項として、自衛隊の行動は国会の承認その他の統制に服するという国会による民主的統制の両面から規定し、シビリアンコントロールについて提案をしています。この考え方も自衛隊法や事態対処法等に規定されているものであり、基本法たる憲法に規定することは当然のことと考えております」。
②公明党
4月13日、公明党の濱地雅一議員は以下の発言をしました。
「自衛隊は言うまでもなく我が国の最大の実力組織であるわけでありますので、これに対する民主的統制の観点から憲法上に書き込んでいく。民主主義、国民主権という観点から、憲法的価値を高めていく意味でふさわしい書きぶりを求めていくべきだろうと思います。」
「そこで、私は、自衛隊法7条の、内閣総理大臣が内閣を代表して自衛隊に対する指揮監督権を有するという民主的統制を定めた規定、これを憲法的価値を高めるために憲法上明記していく。そうなりますと、恐らく、憲法の統治機構の中の、72条とか73条の内閣の職務として書き込んでいくのも一つ考えられるのではないかと思います。この考え方は、前回、自民党さんも示されました図の、自衛隊を国防の側面から規定するという部分と重なると思います」。
【2】自民党・公明党の自衛隊明記の改憲論の問題点
現在の第211回国会の衆院憲法審査会では、日本維新の会も自衛隊明記の改憲論を主張しています。ただ、多少の文言の違いはあれ、自民党の自衛隊明記の改憲論と本質的には変わらないので、ここでは与党の自民党・公明党の主張の問題点を指摘します。
具体的には以下の問題があります。
(1)自民党の改憲論は「無制約な集団的自衛権」を憲法的に認めるものになる
(2)公明党の自衛隊明記改憲論は自民党の改憲論に手助けをするものになる
(3)自衛隊明記の憲法改正は、たとえば「徴兵制」の憲法的根拠となる
(1) 自民党の改憲論は「無制約な集団的自衛権」を憲法的に認めるものになる
自民党のたたき台素案は、「自衛の措置をとることを妨げず」、となっています。
9条1項、2項があっても妨げないという条文のため、「自衛」であれば武力行使や戦争が可能になります。
しかも単に「自衛」とされているため、無制約の集団的自衛権も可能となります。
「自衛権」というと自国を守るためと思われるかもしれません。しかし「集団的自衛権」とは、自国が攻撃されていないのに、密接な関係にある国が攻撃されたと主張して戦うのを認めるものです。
最近では2022年、ロシアが国家承認したドネツクとルハンシクの両人民共和国からの軍事支援の要請を受けたとして「集団的自衛権」を口実にウクライナに侵略しました。「集団的自衛権」は侵略戦争をしたり、外国の戦争に加担する際の口実として使われてきた歴史があります。そして日本が先に外国を攻撃するのを可能にする「集団的自衛権」を認めるのが、自民党の自衛隊明記のたたき台素案です。
(2)公明党の自衛隊明記改憲論は自民党の改憲論に手助けをするものになる
公明党は9条に自衛隊を明記することには反対しています。一部メディアが報じているように、一見すると自民党と公明党の意見に差があるようにも感じられるかもしれません。ただ、公明党も内閣総理大臣の権限を定めた72条、内閣の権限を定めた73条に自衛隊を明記する改憲案を主張しています。公明党の議員が「自衛隊を国防の側面から規定するという部分と重なると思います」と発言しているように、自民党の自衛隊明記の改憲論に加担する主張です。
自民党は文民統制も9条に明記することを主張しています。公明党はそれを9条ではなく、72条や73条に明記しようと主張しているに過ぎません。
4月13日、私は衆議院憲法審査会の傍聴席から見ていましたが、公明党の濱地雅一議員が発言を終えたとき、自民党の山下貴司議員は音を出さない拍手をしていました。公明党の72条、73条自衛隊明記論は自民党の自衛隊明記の憲法改正論と相容れないものではありません。
そして公明党が反対するのは最初だけで、あとは自民党に協力してきた実例には事欠きません。秘密保護法(2013年)、安保法制(2015年)、土地等監視及び利用規制法(2021年)など、公明党が態度を変えた実例は少なくありません。
(3) 自衛隊明記の憲法改正は、たとえば「徴兵制」の憲法的根拠となる
自衛隊を憲法に明記すれば、徴兵や民間人の戦地派遣などに憲法上の根拠を与えるものになります。
自衛隊が憲法に明記されれば、「憲法上の組織である自衛隊の維持は政府の憲法上の役割」などと主張して徴兵制を採用しても憲法違反とは言えなくなります。
「憲法上の組織である自衛隊の円滑な活用のため」として、政府が医師や看護師、薬剤師、建築、土木、運送業者を戦地に派遣しても憲法違反とは言えなくなります。
「徴兵などはあり得ない」という意見もあるかもしれません。
しかし約30年前、自衛隊が海外で戦う法律が作られ、日本から外国領域を攻撃する兵器を持つとはほとんどの人は考えてもいなかったと思います。
ところが2015年9月、安倍自公政権下で世界中での自衛隊の武力行使が可能になる「安保法制」が制定され、2022年12月には岸田自公政権下で敵基地攻撃を持つことを認める「安保3文書」が閣議決定されました。
本当に50年後に徴兵制が敷かれないと断言できるでしょうか?
子どもや孫たちの世代の平和と安全を守るためにも、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党が主張する改憲論に適切に対応することが必要です。
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