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「公選法並び7項目」をずさんな審議で採決しようとする自公維などの政治家について(1)

2021年4月20日

戦争をさせない1000人委員会事務局次長の飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)より、「改憲手続法」改正案をめぐって、今国会における衆議院憲法審査会での動きについての論考を寄せていただきました。

「公選法並び7項目」をずさんな審議で採決しようとする
自公維などの政治家について(1)
~2021年4月15日衆議院憲法審査会での議論について~

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

1.はじめに

2021年4月15日、衆議院憲法審査会が開催された。自民党、公明党、日本維新の会の政治家たちは「本審査会における議論も、ここ2回の質疑で多くの与野党議員から指摘されているように、すでに尽くされている」(自民党新藤義孝議員)、「この7項目案については、早急な成立をお願いしたい」(公明党北側一雄議員)、「実質討議も計8時間余り、ご指摘のとおり、審議はもう十分に尽くされている」(日本維新の会馬場伸幸議員)などと発言し、公選法並び7項目の改憲手続法(憲法改正国民投票法)の採決を求めている。

しかし法の専門家からすれば、公選法並び7項目についても検討すべきことが真剣に検討されていない。以下、4月15日の憲法審査会での発言を紹介しつつ、その問題点を指摘する。

2.「投票環境の向上」に反する「繰延投票」「期日前投票の弾力的運用」

2018年7月5日、自民党の細田博之議員は公選法並び7項目の改正改憲手続法案の提出理由を以下のように述べた。「平成28年に、公職選挙法の数度にわたる改正により、投票環境向上のための法整備がなされています。本法案は、このような既に実施されている投票環境向上のための公職選挙法改正と同様の規定の整備を、国民投票についても行うものであります」。

細田氏の発言同様、メディアでも「公選法並び7項目」の改正手続法案について、「利便性の向上」のためと紹介するものもある。しかし「7項目」のうち、「繰延投票」は「投票環境を悪化」させることはあっても決して「投票環境の向上」にはならない。「期日前投票の弾力的運用」も投票所の閉鎖時間を繰り上げる自治体が多い現状を前提とすれば、「投票環境の悪化」をもたらす可能性が高い。

(1)投票環境を悪化させる「繰延投票」に関する改正案

現在、改憲手続法の「繰延投票」では、たとえば投票日である日曜日が自然災害などで投票できない場合、5日後の木曜日以降に投票日を繰り延べることになっている。これを翌月曜日の投票を可能にするのが繰延投票に関する改正案である。自然災害などで日曜日に投票できない場合、翌日の月曜日に投票などできないと考えるのが普通だろう。当然、「日曜日に投票所が使えないぐらいの災害を受けたところに、機運が盛り上がっているからというだけの理由で、月曜日に大事な国民投票をさせるのですか」(本多平直議員発言)という疑問が出る。

しかし自民党の新藤義孝議員や逢沢一郎議員はこうした質問に支離滅裂な回答しかできていない。そして自民党、公明党、日本維新の会などの政治家は、憲法改正国民投票の環境を悪化させることにしかならない「繰延投票」に関する改正案の問題点を直視せず、法案を成立させようとしている。

(2)期日前投票の弾力的運用

これも現状を踏まえれば、憲法改正国民投票の環境の悪化をもたらす可能性がある。日本共産党の赤嶺政賢議員は、「閉鎖時刻を繰り上げた投票所は、2000年に4644か所だったのが、2017年には16747か所に増えています。県によっては、県庁所在地や都市部も含め、投票所の9割で閉鎖時刻を繰り上げているところもあります」と指摘したうえで、「投票所の数や投票時間の保障は、有権者の投票権の行使、投票機会の公正を確保する上で極めて重要です。公選法の体系に倣って作られた国民投票法の下でも、同様に、投票所の削減、閉鎖時間の繰上げによる投票環境の悪化が起きるのではないか」と発言した。

赤嶺議員が指摘するように、閉鎖時刻を繰り上げた投票所が増えている現状を踏まえれば、期日前投票時間の弾力的運用を認める法改正は、投票環境の悪化をもたらすという懸念をもつのは当然だろう。ところが自民党、公明党、日本維新の会の政治家たちはそうした問題も検討しようとせず、「議論は尽きた」と繰り返し、公選法並び7項目の改正改憲手続法案の採決を主張している。

3.憲法違反の改憲手続法?

立憲民主党の道下大樹議員は、自宅療養者が投票できない現状、限られた選管職員では宿泊療養施設における期日前投票、不在者投票記載場所の運営が困難との現状を紹介した上で、「自宅療養者が投票できない状況は、国民投票においても同様です。公職選挙法に合わせるだけでは、この状況は解消できません。公選法の改正による速やかな対応が求められているのはもちろんでありますが、憲法改正国民投票が憲法違反の状態であるというのは放置されるべきではない」と発言した。

2005年、最高裁判所は、外国にいる日本人が投票できない公職選挙法を憲法違反と判示した(民集59巻7号2087頁)。今回の公選法並び7項目を改正したとしても、憲法改正国民投票の場で投票できない者が出る法改正であれば、最高裁判所の判例に照らせば憲法違反となる。この点についても十分に検討する必要がある。ところが、自民党、公明党、日本維新の会の政治家たちはそうした検討をせず、「議論は尽きた」との発言を繰り返している。

4.「2回」「8時間」の審議で「議論は尽きた」と主張する自民党、公明党、日本維新の会などの政治家たち

今まで紹介したように、「繰延投票期日の短縮」や「期日前投票の弾力的運用」は、「投票環境の向上」どころか「悪化」をもたらす可能性がある。公選法並び7項目の改正を行ったとしても、投票できない者がいる法改正であれば、最高裁判所の判例を踏まえても改正改憲手続法は憲法違反となる。自民党、公明党、日本維新の会などの政治家たちは、こうした問題を真摯に検討せず、「議論は尽きた」と主張し、公選法並び7項目の成立を主張する。

そもそも菅自公政権が集中して取り組むべきは、新型コロナ感染対策に政治の力を注ぐことである。しかし菅自公政権はお粗末すぎるコロナ対策しかできない一方、公選法並び7項目の改正改憲手続法の成立に躍起になっている。その上、自民党、公明党、日本維新の会などの政治家たちは「2回の審議」(自民党新藤議員)、「実質8時間」(日本維新の会馬場議員)で「議論が尽きた」と主張する。たった「2回」「8時間」の審議で「審議は尽きた」と主張する政治家たちは、憲法改正国民投票の重要性を本当に理解しているのか。

以上のような問題が国会で提起されたにもかかわらず、十分な審議もせずに公選法並び7項目の改憲手続法案の採決を主張する自民党、公明党、日本維新の会などの政治家たちは職務怠慢である。憲法改正国民投票で投票できない国民がいるのにそれを放置したまま採決しようとするなど、国民のことを考えていないと言わざるを得ない。国民のことを考えず、極めていい加減な対応で改憲手続法を採決しようとする政治家たちは本当に「国のため」に必要なのか、真剣に考える必要があろう。