戦争法制の構図と危険性
この間の与党協議のなかで提示された戦争法案の内容について、ポイントをまとめましたので、掲載します。
→加筆修正をしました(4月28日)
戦争法制の構図と危険性
安倍政権は4月17日の与党協議に戦争法案(安全保障法制)の主な条文を示し(与党合意)、24日には10本の法案が「一括」提出されることが確定的になった(+新法1本)。「切れ目のない安保法制」をうたい文句に、「存立危機事態」「国際平和共同対処事態」「日本重要影響事態」「緊急対処事態」と、“事態”というあいまいな文言が並び、武力行使(武器使用)の範囲はどこまでも拡張しうるようになっている。
なお、以下のコメントは、4月24日の朝日新聞と25日の東京新聞朝刊に掲載された「条文要旨」も参考にしたが、最終的には法案が国会に提出された時点で精査する必要がある。
武力攻撃事態法改定案(集団的自衛権の行使)
①現行の武力攻撃事態法に「存立危機事態」(「わが国と密接な関係にある国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」、「これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」、「必要最小限の実力行使にとどまるべきこと」)という概念を新設(「新三要件」)。昨年7月の閣議決定は、「憲法9条の下で許容される自衛の措置」と称した。
②国会の承認は、「原則事前、緊急時は事後」とする。
⇒①これは「集団的自衛権の行使」であり、憲法9条で「永久に放棄」した「国際紛争を解決する手段としての武力の行使」に真っ向から抵触する(歴代内閣の憲法解釈を転覆)。「密接な関係」はあいまいで、「友好国」はすべて「密接な関係」とされうる。「国民の生命、幸福追求権」も抽象的で、恣意的使用が可能(「満州は日本の生命線」、ナチスの「生命圏」論とも重なりうる)。「ホルムズ海峡の機雷除去」は石油が理由とされるが、そうなれば穀物もレアメタルも投資・貿易市場も理由にされうる。密接な関係にある国」が国際法に違反して先制攻撃した場合にも、日本はその国を支援して参戦できることになる。国際紛争では、どちらが先に攻撃したか不明または主張が対立する場合が多く、紛争当事国の双方が「個別的自衛権の行使」を主張し、それぞれの利害関係国が「集団的自衛権の行使」に乗り出す可能性がある。日本が一方に参戦すれば紛争は拡大するだけで、双方に安保理常任理事国がからんだ場合、紛争収拾はさらに困難になる。停戦や和平、調停などの積極的外交や、それに資する経済的支援などの「適当な手段」に徹するべきで、武力で平和はつくれない。「必要最小限」の尺度は、相手(敵側)の軍事力、攻撃の態様などによるとされ、事実上際限がない。攻撃を排除するには、敵側より強力な武力を行使するしかなく、「必要最小限の実力行使」とは、常に「敵より強大な武力行使」と同義になる。
②“緊急”の判断を政府に委ね、国会の承認も得ずに参戦できることになる。
国際平和支援法案(派兵恒久法=新法)
①「国際平和共同対処事態」という概念を設け、「国際社会の平和と安全のために活動する他国軍隊に対する支援活動」の新法を制定。テロ特措法やイラク特措法のような事態ごとの特措法による自衛隊派兵ではなく、常設の派兵恒久法とする。
②(1)他国の武力行使との一体化を防ぐ枠組みを設定、(2)国連決議(イ、総会または安保理の活動決定、要請、勧告、容認の決議。ロ、平和への脅威、平和の破壊との認識を示し、加盟国の取組みを求める決議)があること、、
③実施は国会の事前承認を「基本」とする。
⇒①事態の内容に関わらず、地理的限定もなく、いつでも、どこにでも派兵できるようになる。「国際社会の平和と安定のため」とみなせば、他国軍の戦闘を後方支援でき、輸送や医療支援、武器・弾薬の提供、攻撃に発進する航空機などへの給油もできる。
②の(1)、「武力による威嚇、武力の行使にあたるものであってはならない」というが、「現に戦闘が行われていない現場」であっても、他国軍への後方支援が「戦闘(武力行使)の一環」となることは明白。当然、自衛隊は攻撃対象となりうる。②の(2)、明確な安保理決議がなくても、「要請」や「勧告」「容認」などの決議や、具体性のない「平和への脅威、平和の破壊への対処を求める」決議でも他国軍を支援できるようになる。ここでも恣意的解釈が可能になる。イラク戦争での法的根拠のごまかしを正当化するもの。実体的には特定国の「個別的自衛権行使」であっても、国連の「関連決議」があれば後方支援できることになり、集団的自衛権行使に重なりうる(国連の「集団安全保障措置」との境界が不明確化)。
③派兵は「例外なく国会の事前承認を必要とする」(与党合意)となったが、「7日以内に衆参各院が議決するよう」との努力義務規定が設けられた。
PKO協力法改定案
①PKOの業務の拡大および業務の実施に必要な武器使用の権限を見直す。
②必ずしも統括しない「国際連携平和安全活動」(「人道復興支援活動や安全確保活動等の国際的な平和協力活動」)も実施できるようにする。
③2カ国以上の連携で実施され、紛争当事者間の停戦合意があり、当該国の同意があること。
④国会の事前承認を基本とする。
⇒①「PKO業務の拡大」は、「駆けつけ警護」や「兵力引き離し」「武装解除」など、武力衝突の危険が伴い、自衛隊が紛争当事者になる活動も可能にすること。「武器使用の権限見直し」で、「任務遂行のための武器使用」ができるようになる。自衛隊が武力行使し紛争当事者となれば、憲法9条(国際紛争解決の手段としての武力行使の放棄)に違反しうる。
②「国際連携平和安全活動」は、「国連総会や安保理、経済社会理事会の決議」にとどまらず、「国際機関や当事国の要請」でもでき、派兵の要件は限りなく拡大する。「国際機関」は、UNHCRやEUなど多国間条約により成立した機関を政令で定める(NATOなど集団的自衛機構も含まれる?)。また、「武力紛争の再発防止合意の順守確保、混乱に伴う切迫した暴力からの住民の保護、武力紛争終了後の民主的手段による統治組織の設立・再建の援助などを目的とする活動」と定義され、「住民、被災民その他の者の生命、財産への危害防止のための監視、駐留、巡回、検問、警護」が明記されるという。これは当事国の主権的権限である治安維持を代行することになり(代行治安維持)、反政府運動や住民の武力鎮圧になりうる。治安維持での武器使用も「任務遂行のため」に可能となる。「復興」や「被災者支援」も紛争の原因や一部となる場合さえある。「紛争の再発防止の確保」は、自衛隊の武力介入にもなりうる。
③与党協議では、「自衛隊の活動地域以外の場所で紛争が発生していても、紛争当事者の受け入れ同意は不要とする」という案が示されたが、受け入れ同意が不要となれば、自衛隊の活動が敵対行為とみなされ、自衛隊の活動や派遣そのものが新たな紛争の原因になりうる。この場合も「任務遂行のための武器使用」を認めることになりうる。なお、イラク戦争のように停戦合意や受け入れ同意がない場合にも適用可能かについて、自公間で見解の相違がある。
④国会の事前承認を「基本」とするというのは、事後承認もありうるということ(憲法54条の「参院の緊急集会」も無視)。
重要影響事態法案
①周辺事態法の改定とされるが、「周辺」(日本周辺の公海およびその上空)の概念をなくし、地球上どこででも「わが国の平和と安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)で他国軍を後方支援する。
②後方支援の対象は、従来の「米軍」から「米軍等」となり、「安保条約の目的達成に寄与する活動を行う米軍」だけでなく、「国連憲章の目的達成に寄与する活動を行う外国軍その他これに類する組織」に拡大する。また、「安保条約の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化」する。
③当該国の同意があれば、他国の領域でも自衛隊が活動できるようにする。
④要件として、(1)他国の武力行使との一体化を防ぐ枠組みを設定、(2)実施につき、「原則」国会の事前承認を要する。
⇒①「重要影響事態」の定義はあいまいで、日本への武力攻撃がないにもかかわらず、恣意的な派兵、弾薬提供などの戦闘支援が可能になる。これは「個別的自衛権行使」の無限定の拡張、先制攻撃の法制化とも言え、集団的自衛権の行使ともなりうる。
②すでに支援対象をオーストラリア軍にも広げるとされており、「その他の国の軍」や「その他これに類する組織」となれば、いくらでも拡大できることになる。また、「安保条約の運用に寄与することを“中核とする”…外国との連携強化」の意味・範囲もあいまいで、恣意的拡大が可能になる。
④の(1)、後方支援は、従来の「現に戦闘が行われておらず、かつ活動の期間中に戦闘が行われることがないと認められること」(非戦闘地域での後方地域支援)から、「現に戦闘が行われていないこと」という要件だけで行うことになり(「非戦闘地域」「後方地域」という概念も廃止)、戦闘の合間や戦闘準備中の外国軍に後方支援し、支援内容も、武器・弾薬などの「輸送」から、武器弾薬の提供、発進準備中の航空機などへの燃料補給に拡大(ACSA=物品役務相互提供協定は米、豪から英、仏などに拡大予定)。武力行使との一体化を限りなく進めるもので、自衛隊が戦闘に巻き込まれたり攻撃対象になるおそれが非常に大きくなる。④の(2)、「原則国会の事前承認」とは、事後承認がありうるということ。国会承認は、与党の単純多数で可能。
海上輸送規制法案(船舶検査法)
①周辺事態での経済制裁の実効性確保が目的とされたが、「周辺事態」の概念を廃止、シーレーンでの検査も可能とするよう地理的制約を撤廃する(「国際社会の平和と安全に必要な場合の船舶検査活動の法整備を検討」)。
②検査の実施には安保理決議または旗国の同意が必要で、実際上船長の同意も必要だが、旗国の同意だけで船長の同意は不要とする。
③現行法では、積荷・目的地の検査、航路・目的港・目的地の変更が「要請」できるが、強制的検査を可能にする。
④この法律は集団的自衛権行使でも適用する。
⇒①&④日本周辺だけでなく世界中で強制検査ができるようになり、武器の使用による検査の実行となれば、「日本による(先制的)武力行使」となりうる。
②「旗国」(船籍国)と実際の所有国とは異なる場合が多いので、要請にとどまらない強制検査は新たな国際紛争の原因になりうる。
③目的港・目的地の変更の強制は事実上の拿捕になる。
米軍行動円滑化法改定案
日本への武力攻撃事態で米軍に対して行うことになっている「地域や関連措置の情報提供、地方公共団体との調整、物品・役務の提供(武器の提供を除く)、土地・家屋の提供」を、日本が攻撃されていない集団的自衛権の行使の際にも適用する。
⇒自治体や住民に海外での戦争に協力を強制。企業や労働者に米軍への物品・役務の提供を強い、住民の土地・家屋も強制的に接収し、米軍が利用することになる。
特定公共施設利用法改定案
①港湾、空港、空域、電波利用などを制限し、戦争への協力を強制する。
②日本攻撃に際しての米軍の利用を「その他の外国軍」にも拡大する。
⇒①国内の戦時体制づくりであり、企業、労働者、市民の服従が強制される。②米軍以外の外国軍も日本の公共施設を使って軍事行動ができるようになる。
邦人救出(自衛隊法改定案)
①政府提示の5事例((1)邦人が多く搭乗する航空機がハイジャックされ、空港に着陸した場合、(2)日本の在外公館が武装勢力に乗っ取られた場合、(3)国外退避する邦人の集合場所に向うため、武装勢力のバリケードを突破する場合、(4)国外退避のための邦人の集合場所が群衆に取り囲まれた場合、(5)国外退避しようとする邦人の一部が武装勢力に連れ去られた場合)のような場合に、派遣先国の同意を前提に自衛隊が救出作戦をできるようにする。
②武器使用の要件は、(1)領域国の同意が及ぶ範囲で活動すること、(2)派遣手続きは首相の承認を要すること、など。
⇒①5事例はあくまで「例示」であり、これ以外にも「類似のケース」として自衛隊派兵が行われうる。5事例はいずれも事態発生国の警察権の対象であり、「代行治安維持」に等しい行動である。ここでも「任務遂行のための武器使用」となるのか? その行動の内容や結果の法的処置は当該国の「超法規的措置」になるのか?
②「領域国の同意が及ぶ範囲」とは、どう判断できるのか? 「首相の承認」という当然のことが「要件」とは!私たちは、日本の中国侵略や米国のカリブ諸国への侵攻、「イスラム国」への空爆などが「邦人保護」の名目で行われたことを忘れてはならない。
日本緊急対処事態法案(=グレーゾーン事態/自衛隊法改定)
A:①非国家の武装集団による離島等の占拠など(緊急対処事態)に対し、警察・海上保安庁の対処をまたず自衛隊が出動(海上警備行動、治安出動)して排除。
②手続き迅速化のため、いくつかの典型事例について閣議決定する(「電話閣議」で出動命令が出せる)。
B:①「わが国の防衛に資する活動に現に従事する米軍その他の外国軍等の武器等の自衛隊による防護」(公海上で警戒・情報収集をしている米艦も防護)。
②外国軍等の武器の防護の要件は(1)わが国の防衛に資する活動に現に従事する米軍、その他の外国軍、これに類する組織の部隊の武器等と認められるもの、(2)わが国の防衛義務を負う米軍の武器等と同様な「わが国の防衛力を構成する重要な物的手段」に当たり得ること。対象にはオーストラリア軍も。
③米国に向かうミサイルを自衛隊が迎撃。
C:①日本領海内で潜没航行する外国潜水艦への対処、排除。
⇒A:①尖閣諸島の問題では、日本は海保が、中国は海警が対応し、軍隊間の武力衝突にならないよう工夫されている(日中平和友好条約に基づき)。自衛隊が前面に出れば、中国も海軍を出動させることになり、武力紛争の引き金になる(竹島/独島も同様)。また、「離島等」には本土も含まれるとされ、本土の各地で警察権の対象である犯罪に自衛隊が対処、武力で制圧することになる。事実上の「地域戒厳令」に等しい。
②「電話閣議」ということは、熟議検討が省かれ、国家安全保障会議の4大臣だけの判断が通りやすくなり、いっそう恣意的判断や判断ミスが生まれやすくなる。
B:①日本に対する武力攻撃が発生していない状態での米艦防護は、実体的には集団的自衛権の行使にほかならない。相手国には先制攻撃となり、報復攻撃(相手国には個別的自衛権の行使)の理由ともなる。また、米軍以外の外国軍の防護も可能となれば、集団的自衛権行使の再拡張になり、法制的には防護対象は際限なく拡大しうる。「これに類する組織の武器」とは、外国の沿岸警備隊なども防護?
②防護対象は「武器等」となっており、艦艇だけでなく航空機なども含まれる。
③この武力行使は現場の自衛隊の判断だけでできることになる(内閣の責任転嫁が可能。米軍は「大統領か国防長官だけが集団的自衛権の行使を認めることができる」米陸軍『運用法ハンドブック2014』)。②米国に向かうミサイルの迎撃とは、ほとんど想定不能なケースであることはすでに論破されている。明らかに集団的自衛権の行使であり、「グレーゾーン」に入れるのはごまかしだ。
C:潜没航行する外国潜水艦の事例は、当初のグレーゾーンの事例に入っていたが、その後「参考例」に格下げされた。外国潜水艦が動力や通信機器の故障などで日本領海内の海中に停滞している場合に自衛隊が攻撃すれば、少なくとも誤認攻撃、あるいは先制攻撃ともなり、一挙に国際紛争を発生させることになる。
捕虜取扱法
⇒この法律が集団的自衛権の行使(存立事態法)にも国際平和支援法、重要影響事態法にも適用されることになれば、捕虜の定義や処遇、自衛官の犯罪行為など国際法、国内法の両面で複雑な問題が生じうる。代行治安維持での拘束者の処遇にも同様の問題が生じる。
国家安全保障会議設置法改定案
日本版NSAの審議事項に上記の内容を盛り込む。
⇒憲法違反で重大な戦争行為の決定が、最低4人の閣僚(首相、官房長官、外相、防衛相)で行われることになる。「首相が判断を誤ったら、首相を選んだ国民の責任だ」(岡崎久彦・安保法制懇委員/故人)では、取り返しがつかない。
<関連事項>
ACSA改定・拡大(物品役務相互提供協定)
①日米の旧ACSAでは、「国際の平和と安全への寄与」、大規模災害対処、共同訓練、PKOなどでの食龍や燃料などの物品提供(武器・弾薬を除く)、輸送や修理などの役務提供を規定していたが、2002年改定で武力攻撃事態・武力攻撃予測事態で弾薬の提供もできるようになった(武器は除く)。②2010年の日豪ACSA(民主党内閣)は、共同訓練、PKO、人道的国際救援活動、大規模災害、邦人等の退去のための輸送で物品・役務の提供ができるとされた。
③ACSAは国会承認が必要な国際約束だが、政府の申し合わせだけで提供できるような仕組みを検討するという。
⇒①「存立危機事態」(=集団的自衛権行使)の場合も武器・弾薬の提供ができるようになろう。
②日米、日豪だけでなく、日英でACSA締結の交渉中で、3月には日仏ACSAの検討が合意された。ACSA対象国は同盟条約のない国に際限なく拡大しうる。
③政府間の合意だけで提供できるようになれば(憲法73条3項と大平三原則に違反)、実上、国会の監督は及ばなくなり、どの国とも武器・弾薬、給油などの相互提供が可能になる。
日米・日豪ACSAの改定案は今回の戦争法案の中には含まれないが(国際条約のため別途の扱いとなる)、戦争法案が成立すれば必然的に持ち出されることになる。
国民保護法
⇒武力攻撃事態法に関連する「国民保護法」には、自治体や企業、労働者、市民に防衛戦争への協力を強いる規定があるが、武力攻撃事態法改定案が成立すれば海外での戦争でも協力させられ、米軍行動円滑化法改定案と特定公共施設利用法改定案が成立すれば「米軍その他の外国軍等」にも協力を強いられることになる。
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